【最終章-9】ルドルフの予想外の提案
魔物が全て討伐されたのを見届けた瞬間、リリィの体から、すっと力が抜けていった。
(ほよ・・・ちょっと・・・頑張りすぎちゃった・・・)
儀式魔法を放った事でごっそりと膨大な魔力の消費したリリィは浮遊魔法を維持する事が出来なくなっていた。
「――あ」
視界がぐらりと揺れ、浮遊魔法が唐突に途切れる。
体が重力に引かれるまま真っ逆さまに落ちていく。
(どうしよう・・・)
考えようにも、既に魔力は底をついていた。何をする術もない。
(このまま・・・死んじゃうのかな・・・?いやだな・・・)
ようやく、ブラックモア公爵の悪事を白日の下に晒せたのに。これから本当の意味で学院生活を謳歌できるはずだったのに。
こみ上げる涙で視界が滲む。
「リリィ!?」
その時、どこからか自分を呼ぶ声が聞こえた。
そして――落下が、ふいに止まった。
「良かった、間に合った」
浮遊魔法で飛び上がり、落ちてくるリリィをしっかりと受け止めたのは、オリビエだった。
「ほよ・・・ありがとう・・・オーリ」
助けられた安堵と喜びに、リリィの目からぽろぽろと涙がこぼれる。
「よく頑張ったね、リリィ」
優しくそう告げながら、オリビエはゆっくりと校庭へと着地した。
――
一方、その頃。
取り押さえたブラックモア公爵の前で、ガルシアはルドルフに向かって静かに進言していた。
「災害級の魔物の群れ、これは偶然ではなく――この者が仕向けたものかと」
「そうよ」
不意に聞こえた声に、ルドルフもガルシアも揃って驚いた顔を見せる。
「この公爵の執事が、魔物を呼び寄せる魔導具を持っていたわ」
「マ、マリアンヌ殿・・・」
ガルシアは思わず背筋を凍らせた。
いつの間にか現れたマリアンヌは、公爵の執事の首根っこを無造作に掴むと、そのまま公爵の方へと放り投げる。執事の手には、確かに一つの魔導具が握られていた。
「さあ、白状なさい」
マリアンヌは、悪い顔をしながら公爵ににじり寄る。
「貴方達が、何をしようとしたのかを」
チクチクと魔法で軽く痛めつけながら、公爵から次々と自白を引き出していくマリアンヌ。その光景に、ガルシアはさすがに公爵に同情したくなるほどだった。
(惨い・・・)
「マリアンヌよ」
ルドルフが、静かに声をかける。
「そこまでで良い。後は儂が沙汰を言い渡す。それで良いな?」
「ええ、陛下の御心のままに」
マリアンヌはあっさりと手を止めた。
「して――リリィ・クローデルは、どうなった?」
ルドルフが、リリィの身を案じるように尋ねる。災害級の魔物、三十体。本来であれば、魔法師団と騎士団が総出で対処すべき事案だ。
「それなら大丈夫よ。もう討伐したわ」
マリアンヌは、にっこりと笑った。
「私の可愛い弟子だもの」
「ほよ!?師匠!?何でここに?」
ちょうどその時、当のリリィが戻ってきた。しかも、オリビエにお姫様抱っこされた状態のままで。
「あら?リリィ、もしかして魔力が枯渇しそうなの?」
マリアンヌが眉をひそめる。
「ダメよ?ちゃんと帰還するだけの魔力は残しておかないと」
そう言いながら、リリィの頭をそっと撫でる。
「でも、頑張ったわね。流石、私の可愛い弟子だわ」
「えへへ、ありがとう師匠」
はにかむリリィの隣で、マリアンヌはオリビエへと視線を向けた。
「ありがとうね、オリビエ。リリィを助けてくれて」
微笑みながら言うその眼差しは、しかしどこか値踏みするような鋭さも秘めていた。
「いえ、それが私の務めですので」
オリビエは丁寧に一礼すると、そっとリリィを地面に降ろす。
「ほよ・・・」
まだ足元がおぼつかないリリィを、オリビエがそっと支えた。
「よくやってくれた、リリィ・クローデル」
ルドルフが、深く頷きながら告げる。
「我が国の危機を救ってくれた事、感謝する」
「え、いえ。そんな・・・」
先ほどまでの毅然とした態度は、すっかり鳴りを潜めていた。
「そなたの働きと、その資質を称え、儂はそなたを――四賢者に任命しようと思うのだが、どうだ?」
「――!?」
その、あまりに予想外な一言に。
リリィの人生史上、最大級の「ほよ!?」が、その場に響き渡った。
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