【最終章-8】邪悪を断つ、魔法
側近からもたらされた報告はルドルフだけでなくガルシアやアークレイン公爵を戦慄させた。
ただでさえ災害級の魔物を一体倒すのに一個大隊を必要とするのに群れとなると、一体どれだけの兵を投入すれば良いのか想像も付かなかった。
「なんじゃと!?マリアンヌを呼べ!迎撃させるんじゃ!」
ルドルフが叫ぶ。だが、側近は苦しげに首を振った。
「しかし、魔物の進行は速く・・・マリアンヌ様を呼んでも、間に合うかどうか・・・」
絶望的な報告に、ルドルフは思わず頭を抱えた。
――だが、その時。
「私にお任せください、陛下」
毅然としたリリィの声が、静かに響いた。
「――!」
その一言に、ルドルフはハッと目を見開く。忘れかけていた事実を今、改めて思い出す。
――リリィは、あの終焉の魔女、マリアンヌの弟子なのだと。
かつてマリアンヌが帝国軍を退け王国の危機を救った様に――リリィもまた、この王国の危機を救ってくれるのではないかと考える。
「うむ」
ルドルフは、深く頷いた。
「リリィ・クローデル。そなたに託す」
この場に残された、最後の希望。その全てを、リリィに委ねる。
「畏まりました、陛下」
リリィは、静かに一礼した。
そのまま迷いなく学院の外へと駆け出し、浮遊魔法を発動させると、一気に上空へと舞い上がる。
(まずは、魔法阻害の魔導具の位置を特定しないと)
眼下に広がる学院全域へと魔力探知を展開し、瞬く間に隠された魔導具の位置を特定すると、次々と正確に破壊していく。
(後は・・・魔物の対処だけ)
そのまま高度を上げ、遠方に迫る魔物の群れを目視する。
「――!」
その数、およそ三十体。
(誰かが・・・意図的に、操ってる?)
不自然なほどに統率の取れたその進軍に、リリィは違和感を覚えた。だが、今はそれを追及している時間はない。
深く息を吸い込み、リリィは右手を天へと高く掲げた。展開するのは、自身が扱える最大規模の魔法。
――儀式魔法。
リリィが、唯一詠唱を必要とする魔法。膨大な魔力と詠唱を、精霊や神等へと捧げ、その力を借り受ける、最上級魔法をも凌駕する古代の魔法。
「リリィ・クローデルが命じる」
その声は、静かでありながら、天地を震わせるほどの重みを持っていた。
「氷の魔人シヴァ。邪悪なるものあらば――星霜の息吹をもって、その邪悪を凍てつかせ」
大気が、震える。空から、ちらちらと雪が舞い始めた。
「――ダイアモンドダスト」
静かに、リリィは右手を降ろした。
その瞬間。
魔物の群れを囲むように、大気そのものが凍りつき、無数の氷の棘が一斉に射出される。突き刺さったその場所から、魔物たちは次々と結晶のように凍りついていった。
轟音も、咆哮も――一切なく。
しん、と静まり返った空の下、災害級の魔物、三十体すべてが、リリィただ一人の手によって、静かに討伐された。
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