【最終章-6】暴かれる本性
「フン」
ブラックモア公爵は、鼻先で笑うようにリリィを見下した。
「私が襲撃を指示した証拠は、あるのか?」
「――陛下」
その時、入口から声が響いた。
「私はブラックモア公爵に命じられ、この学院に潜入し――リリィ・クローデルの殺害を命じられました」
「――!」
現れたのは、ヘクターだった。リリィに向け、申し訳なさそうな表情を浮かべながらも、真っ直ぐにその場へと進み出る。
「私の師、ベアトリクスが死んだのはリリィ・クローデルの仕業だと吹き込まれ――殺害を命じられました」
その言葉と共に、ヘクターは公爵を鋭く睨みつけた。
「――!」
ブラックモア公爵の顔から、明らかに血の気が引いていく。
「グレン」
ルドルフの声が、一段と冷たくなった。
「申し開きをする事はあるか?」
「陛下!これは罠です!この娘が、私を貶めるために――」
「――罠だと?」
その瞬間、それまで静かに沈黙を保っていたアークレイン公爵が、静かに口を開いた。
「――!」
ブラックモア公爵の肩が、ぴくりと震える。
アークレイン公爵は、冷たい視線でブラックモア公爵を射抜いた。
「では、問おう」
低く、しかし確かな声だった。
「なぜ我が息子オリビエと、エゼルロンド侯爵の娘サゴット嬢の縁談を貴殿が持ち掛けて来た?」
「――!」
リリィの心臓が、大きく跳ねた。
(ほよ・・・?お見合いって・・・罠・・・?)
「貴殿は、『家同士の結びつきが必要だ』と、強引に話を進めた」
アークレイン公爵は、静かに続けた。
「だが、今確信した。あれは――クローデル嬢を孤立させる為の罠だったと」
「――!」
リリィの胸が、ぎゅっと締め付けられる。
(あの時・・・お見合いも、仕組まれていたんだ・・・)
視界が滲み、涙がこぼれそうになる。あの日、悲しみを堪えながら「お似合いだと思うよ」と言った自分。何も知らなかった自分の姿が、脳裏をよぎる。
だが、リリィは震える声を、確かな意志で抑え込んだ。
「私・・・あの時、公爵邸に攫われ、捕らえられました」
まっすぐに、ルドルフを見据える。
「ですが、シーナさんとヘクターさんが助けてくれたお蔭で、ここに居ます・・・」
そう言うと、リリィは懐から一冊の手記を取り出し、静かに差し出した。
「陛下、この手記もご覧ください」
そこに綴られていたのは、ベアトリクスが生前に残した、最後の言葉たちだった。
公爵に仕えたことへの後悔。弟子を妾に差し出し、死なせてしまったことへの深い悔恨。憎き公爵の命令で、罪なき少女を殺めよと命じられた葛藤。そして――自身すらも殺すと予言された少女への、複雑な想いと、心からの謝罪。
「――何と」
ルドルフは、深く頭を抱えた。
「儂は・・・彼女に、とんでもない汚名を着せてしまっていたのか」
その声には、抑えきれない後悔が滲んでいた。
「陛下」
リリィは、静かに、しかし強い意志を込めて告げる。
「私は、ベアトリクスさんの名誉回復を進言します」
「――黙れ」
震える声で、公爵が叫んだ。
「黙れ、小娘!!貴様さえいなければ・・・!!」
その醜態を、ルドルフは冷ややかに見下ろした。
「公爵よ」
鋭い声が、辺りに響く。
「貴殿の言葉が――貴殿の罪を証明しておる」
「――」
追い打ちをかけるように、アークレイン公爵が続けた。
「息子を利用し、少女を捕らえる為に”縁談”を使うとは……貴族の風上にも置けぬ」
その声は、氷のように冷たかった。
「もはや、弁明の余地はない」
その一言が決定打となった。
「――ふ」
ブラックモア公爵の口から、乾いた笑いが漏れる。
「小娘め・・・やってくれたな」
その表情から、取り繕っていた仮面が、完全に剥がれ落ちた。
「来い」
低く、しかし確かな声で、公爵が呼びかける。次の瞬間、周囲の物陰から、次々と刺客たちが姿を現した。その数、およそ十人。
「ここに居る者達を、始末しろ」
冷酷な命令と共に、公爵は懐から魔導具を取り出し――雷の矢を、静かに展開し始めた。
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