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【最終章-5】Alea jacta est.(賽は投げられた)

学院長室に呼ばれたリリィは緊張の面持ちでルドルフと向き合っていた。


「いやはや、素晴らしい戦いぶりであったぞ」


ルドルフは、目を細めながら惜しみない称賛の言葉を送った。


「お褒めに預かり光栄です、陛下」


リリィは、ロナたちに徹底的に叩き込まれた所作で、丁寧に礼を返す。その洗練された振る舞いに、内心ほっと胸を撫で下ろしていた。


(練習しておいて良かった・・・)


「ガルシアよ。良き生徒が入ったな」


満足げに笑うルドルフに、ガルシアも柔らかく微笑んだ。


「左様ですな」


「リリィ・クローデルよ」


ルドルフは、改めてリリィに視線を向ける。


「これからも学び、友と切磋琢磨するのだぞ」


その言葉に、リリィは一瞬、息を整えた。


――今だ。


「恐れながら、陛下」


まっすぐに顔を上げ、リリィは毅然とした態度で口を開いた。


「私はこの学院に入学し、様々な人達と出会い、学び、平穏な学院生活を送っておりました」


一拍置いて、続ける。


「しかし――その平穏を、ブラックモア公爵が脅かすのです」


「――!」


その場の空気が、一瞬にして凍りついた。


「何だと!?貴様、無礼であるぞ!」


真っ先に声を荒らげたのは、当のブラックモア公爵だった。突然の告発に、その顔には隠しきれない怒りが滲んでいる。


だが、リリィは怯まなかった。


「陛下――こちらをご覧ください」


静かに、しかし確かな声で告げると、リリィは懐から一枚の羊皮紙を取り出し、ルドルフへと差し出す。


――ベアトリクスの隠し部屋にあった、あの契約書。ブラックモア公爵が、かつてベアトリクスに強いた禁術「裏切れない契約」。


「これは・・・」


受け取ったルドルフが、静かに目を通していく。


「――!」


「陛下、それを――!」


慌てて奪い取ろうとするブラックモア公爵。だが。


「――控えよ!」


ルドルフの一喝が、辺りに響き渡った。その威厳ある声に、公爵は身をすくませ、思わず動きを止める。


「公爵よ」


ルドルフの声が、氷のように冷たくなる。


「これは、どういう事だ?」


その視線は、もはや疑いようのない鋭さで、公爵を射抜いていた。


「陛下、小娘の戯言に耳を貸してはなりませぬ」


公爵は、必死に取り繕うように言葉を並べる。


「これは・・・その、陛下に取り入り、私を貶めようとする策略にございます」


その狼狽ぶりは、もはや隠しようもなかった。


「陛下」


そこへ、静かにガルシアが進み出た。


「儂も、リリィ・クローデルが何者かに襲撃されているのを、何度も報告を受けております」


「ガルシアよ、どういう事だ?」


ガルシアに向き合うルドルフは事情を聞こうとする。


淡々と、しかし確かな口調で、ガルシアはこれまで学院で起きた数々の事件――ヘクターの一件、交流戦での入れ替わり、そして侵入者トヴァルによる襲撃――その一つ一つをルドルフに語り始めた。

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