【最終章-4】まさかの模擬戦
リリィは、目の前のオリビエと対峙していた。
(ほよ、何でこんな事に・・・)
小さくため息をつく。
事の発端は、三十分ほど前に遡る。
「この学院には、マリアンヌの弟子が入学したそうだな」
視察の最中、国王ルドルフがふとそう切り出した。
「何でも、マリアンヌ譲りの規格外の強さだとか。折角だから、誰かと試合している所を見てみたいものだな」
その一言に、ガルシアたちは慌ただしく動き出し、リリィと、その対戦相手の選定へと駆け回ることとなった。
「やはり――オリビエ殿しかおるまい」
リリィを除けば、学院内でオリビエの右に出る者はいない。ガルシアの判断は、すぐさま実行に移された。
「ほよ?陛下が私とオリビエが試合するのを見たいんですか?」
呼びに来たジョシュアに、リリィが尋ねる。
「ああ、そうだ。だから準備しろ」
頭を抱えたまま答えるジョシュアの姿に、リリィは(ジョシュア先生、大変だなぁ・・・)と同情しつつも、試合場へと足を運んだ。
そして、今に至る。
――
「リリィ、気兼ねなく撃って良いからね」
爽やかな笑顔で言うオリビエに、リリィは小さく頷いた。
「ほよ、うん」
先ほどまでの緊張が、その一言でほぐれていく。
「双方、よろしいな。では――始め!」
ガルシアの合図と共に、試合が始まった。
「流石に父上や陛下が見ているんだ。少しはカッコつけさせてもらうよ」
そう言うと、オリビエは試合場全域を、瞬く間に氷魔法で凍りつかせた。
「――!」
リリィは即座に防御魔法を展開し、その一撃を防ぎきる。
「オリビエ凄いね、今の。短縮魔法?」
感心するリリィに、オリビエは笑顔で答えた。
「そうだよ。リリィ程じゃないけど、比較的早く発動できるんだ」
言いながら、オリビエは無数の氷の刃を放つ。
「――!」
リリィは右手を掲げ、風魔法で氷の刃を次々と粉砕していった。
「やっぱりリリィは凄いよ。流石、マリアンヌ様の弟子なだけある」
オリビエの胸の内は、高揚感で満たされていた。想いを寄せる相手と、こうして本気の魔法戦を繰り広げられること。しかも、その相手は自分など到底及ばぬほどの実力者だ。
このかけがえのない一戦に、オリビエは静かに感謝していた。
「じゃあ、私はこの魔法を全力をもって放つよ」
そう告げると、オリビエは自身が放てる最大威力の魔法を詠唱し始めた。目の前に巨大な氷の槍が形成されていく。
「ほよ〜、これがオリビエの本気なんだね」
見上げながら、リリィも静かに口を開いた。
「じゃあ、私も」
風と雷、二つの属性を掛け合わせた魔法を、リリィは構築し始める。
「――!」
複合魔法。学院内で誰一人として成し得ない規格外の技術。驚きつつも、オリビエは口元に不敵な笑みを浮かべた。
「まさか、複合魔法まで使えるとはね。行くよ、リリィ」
「うん!」
オリビエが渾身の氷の槍を放つ。同時に、リリィが風と雷の奔流を解き放つ。
轟音と共に、氷の槍は雷に打ち砕かれ、その余波でオリビエの体は大きく吹き飛ばされた。
――決着だった。
「勝者、リリィ・クローデル」
静かに、ガルシアがそう告げる。
地に伏したオリビエの表情は、しかしどこか満ち足りたものだった。
――
その盛大な歓声と拍手に沸く試合場の裏で。
ブラックモア公爵は、静かに部下を呼び寄せていた。
「――計画開始だ」
低く、それだけを耳打ちする。
その言葉と共に、学院全域に密かに仕込まれていた無数の魔導具が、音もなく起動を始めた。
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