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【7章-9】思春期男子としては普通の反応

学院へ戻ったオリビエは、そのまま医務室へリリィを連れて行く。エリオットやロナ達にも連絡が行き、ロナ達は動揺を隠せなかったがリリィが無事に戻った事に胸をなでおろした。


「オリビエ様・・・リリィを助けてくださり、ありがとうございます」


ロナが深々と頭を下げる、ミリアムやティオも同じく頭を下げるがオリビエは少しバツが悪く思ってしまう。


ミリアムとの縁談を当日断ってしまった事でミリアムから何か言われるのではないかと思い内心ひやひやしていた。


「私は気にしておりません。寧ろ、これで良かったと思っていますわ」


ミリアムがオリビエの気持ちを察したのか、笑顔で言う。


「すまない・・・それに、リリィを助けようとしたけど・・・私はリリィに助けられた様なものだ・・・」


魔法を封じられた状態で剣で対抗したものの、むざむざと負けて殺されそうになったのだ。それをリリィが土壇場で魔力を放出していなかったら・・・そう思うとリリィに負担を強いてしまった事を悔やむ。


「ここまでリリィを運んでくれたのは間違いなくオリビエ様です。ですから、ありがとうございます」


ミリアムが微笑みながら言う。


「あぁ、ありがとう」


そう言いオリビエはエリオットと共に寮へ戻る。その道中、オリビエは破れた服から覗くリリィの白い素肌に見入ってしまった事を思い出し自己嫌悪する。


そんなオリビエを見たエリオットは「おーい、どしたー?」と不思議に思い、目の前で手を振る。


「・・・いだ・・・」


小さく何かを呟くオリビエに、エリオットは聞き返す。


「え?何て?」


「私は・・・最低だ・・・」


オリビエは頭を抱え、深く俯いた。心なしか耳まで赤く染まっている。


「リリィの素肌を見て・・・劣情を抱いてしまいそうになった・・・」


「――ぶっ」


今まで見たことのない、真っ赤になって項垂れるオリビエの姿に、エリオットは思わず噴き出した。公爵子息として常に他の貴族の模範になるよう務めているオリビエが、まさかそんな表情を見せるなんて。


「まぁ、良いんじゃねぇの?本人にバレてなきゃ」


腹を抱えて笑いそうになるのを堪えながらエリオットは軽い口調でフォローするが、オリビエの自己嫌悪は、まだしばらく続きそうだった。


――


オリビエ達が去った医務室ではロナ達はこっそりと話していた。


(さっきのオリビエ様、ちょっと顔が赤かったような・・・)

(えぇ、きっとリリィの破れた服から素肌が見えて邪な想いを抱いたからじゃないかしら)

(え、オリビエ様もやっぱ男子なんだね・・・)


ロナ達にはバレていたが、三人はリリィには内緒にしておこうと言う事になった。助けて医務室まで運んだ事の役得と武士の情けだ。


「それにしても、こんなにボロボロになるなんて・・・」


ロナが気を取り直して話す。


「魔法を阻害する魔導具・・・前にヘクター先生に襲われた時と同じだよね・・・」


珍しくティオは興奮せず、冷静にその魔導具がどの様な術式で動いているのか考えていた。リリィ程の実力を持ってしても、その魔導具で魔法が使えなくなるのだ。まさにリリィの天敵と言える代物だ。


「そうね、ただ・・・あれは違法魔導具の部類だって学院長が言ってたわ」


ミリアムが言うとティオも「確かに」と同意する。


「にしても、そこまでしてリリィを保守派に引き入れたいだなんて」


「当初は殺すつもりだったのでしょうけど、予定を変えて懐柔させれば予言を回避出来ると思ったのかしら」


「もしそうだったら、まだリリィは狙われる可能性があるよね」


ロナ達が話していると、リリィがゆっくりと目を開ける。ここは何処だろうとリリィは意識を失う直前の事を思い出そうとするが、オリビエの温もりと上着から香る匂いだけだった。


「ほよ・・・ここ・・・」


上体を起こし見渡すリリィに気づいたロナ達は目覚めたリリィに涙を流しそうになる。


「良かった、目が覚めたのね」


ロナが優しくリリィの頭を撫でる。リリィは「えへへ」と笑顔になりながらロナ達に今日の出来事を順を追って語り始めた。劇場前で攫われたこと。地下牢でシーナに助けられたこと。そしてベアトリクスが残した隠し部屋から『裏切れない契約』の契約書を手に入れたこと。ウィリアムと戦いボロボロになり意識を失ったこと。


「それからはよく覚えて無いんだけど、何とか魔力を放出して倒せたよ」


リリィは何とも無いように話すが、ロナ達にとっては大切な友達が死にかけていた事に背筋が凍りそうな思いだった。


「でも、無事で本当に良かったわ・・・」


潤んだ目を指で優しく拭いながらロナが言う。


「えぇ、貴女が死んだら・・・私達だけじゃなく、オリビエ様も悲しむわ」


毅然とした態度でミリアムが言うが、今にも泣きそうなのを堪えている。


「うん、リリィ・・・よかった・・・」


瓶底メガネから涙が伝いティオは拭いながら言う。


「リリィ、オリビエ様との縁談は、破談になったから・・・安心なさい。きっと、演劇はまたオリビエ様が誘ってくれると思うわ」


ミリアムが言うとリリィは驚く。そうだ、ミリアムはオリビエと縁談があったんだと思い出す。それなのにオリビエがどうして助けに来たのだろうと、薄っすらと疑問に思っていたのだ。


「ほよ?破談になっちゃったの?」


驚くリリィだったが――次の瞬間、ふと自分の中に安堵の感情が広がっていることに気づいた。


(あれ・・・? 何で私、今・・・安心したんだろう・・・?)


オリビエとミリアムの縁談が破談になったこと。それは本来、ミリアムにとっては悲しい話のはずなのに――なぜか自分は、ほっとしている。


(きっと私・・・意地悪な子になっちゃったんだ・・・)


複雑な表情を浮かべるリリィを、三人は不思議そうに見つめていた。


「そう言えば、オリビエ様の上着を返し忘れてたわね」


ロナの一言でリリィは自分が上着をギュッと握っている事に気づいた。


「ほよ!」


リリィは少し恥ずかしがりながら「これ、代わりにオリビエに返しておいて」と言い渡そうとするが。


「リリィ、今日は休んで明日オリビエ様に返しなさい」


有無も言わずに言うミリアムにリリィは押し負けてしまうのだった。

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