【第7章-8】助ける理由
オリビエは普段、公爵子息として凛とした姿勢を他の者に見せていた。それは、貴族としての務めであり自身の振る舞いがアークレイン公爵家の評価に繋がると知っているからだ。
しかし今、彼はそんな公爵子息としての肩書きを気にする事なく息を切らせて走っている。
(リリィ・・・無事でいてくれ・・・)
本気で大切な人だと気付いたが、その大切な人はブラックモア公爵と言う魔の手に狙われていると言う事実を失念していた。
彼女を想うあまり、おざなりになってしまっていた事に今も後悔している。それでも悔やむだけでは彼女を救う事すら出来ない。
オリビエはブラックモア公爵邸まで走って行った。
公爵邸に辿り着いたオリビエは、そのまま見つからない様に隠れながら屋敷に潜入する手段を考える。
幻影魔法を使えば楽なのだが、オリビエにはまだ安定して幻影魔法を構築する事が出来ない。ここで幻影魔法を使い、もし不安定だったら今度は自分も見つかってしまう。オリビエは幻影魔法を使わずに潜入する方法を探る。
(まずは裏手に回ろう)
そう考え、オリビエは屋敷の裏手に移動する。屋敷は使用人たちが慌てて動き回っている事に気づいた。もしかしたらリリィが屋敷内で戦っているのかもしれない。オリビエは静かに屋敷内の様子を探りつつ裏庭に辿り着く。
そこには思いがけない光景が広がっていた。
老齢で黒い燕尾服を纏いレイピアを携えた男性の姿と
血を流し倒れているリリィの姿だった。
(リリィ!?)
一瞬、頭が真っ白になりかけたオリビエだが直ぐに冷静さを取り戻し、リリィを助けに割って入る。冷静さを通り越し、怒りに変わっていく。
「おや、誰かと思えば・・・アークレイン公爵のご子息ではございませんか」
ウィリアムがレイピアを一振りし付着した血を落とす。その所作にオリビエは手練れであろうと確信する。
「彼女を返して貰う」
そう言いオリビエは右手をかざし氷魔法を発動しようとする。しかし、氷魔法は霧散しウィリアムに届く事は無かった。
そんな馬鹿なとオリビエは驚くが、ウィリアムは笑みを零し身に着けているネックレス状の魔導具見せる。
「これは魔法を阻害の魔導具にございます。貴方様の魔法も無力化出来ます故」
リリィが倒れた理由を理解した。確かにリリィは規格外の強さを持っている、マクスウェル魔法学院では随一の強さ。
それなのにリリィがこの男に倒されたのは、あの魔導具で魔法を封じられたからだ。思えば思う程オリビエは頭に血が上っていくのが分かる。
そんな手を使ってまで、リリィを捕らえたいのかと。
「しかし不思議ですな。アークレイン公爵の子息である貴方様が、このような娘を助けようなどと・・・」
ウィリアムは口に手を当て考える素振りを見せる。誘っているのだろうか?オリビエには分かりかねていた。
「彼女は私の大切な友人だ、助ける理由なんて・・・それで充分だ」
オリビエは護身用の剣を抜く。正直、剣の腕はそこまである訳ではない、自衛として嗜む程度にしか覚えていない。それでも、リリィを助ける為ならばと自身を奮い立たせる。
「ふむ、まぁ良いでしょう。どの道、この娘は我が主の手に渡る・・・そうすればアークレイン公爵様率いる革新派に対抗出来ると言うものです」
「そんな事、私が許すと思いますか?」
「貴方様の許しは必要ございません。貴方様は今日ここには来なかった、暴漢に襲われ殺されてしまったという事にして差し上げますから、ご安心ください」
何も安心できないな、とオリビエは口から出そうになったが堪えウィリアムに斬り掛かる。狙いはネックレス状の魔導具。
しかし、ウィリアムはオリビエの狙いを見透かしていたかのようにレイピアで剣を捌く。
「甘いですな、貴方様の狙いなど分かり切っておりますぞ」
余裕を見せるウィリアムはそのままレイピアでオリビエの心臓を狙い突こうとする。
「くっ!」
辛うじて剣で弾いたが、ウィリアムの追撃は止まらずオリビエは左腕を切られてしまう。ぽたりと腕から血が流れる。痛みはあるが、オリビエは歯を食いしばって我慢する。
「おやおや、公爵子息であろうお方が剣の腕はからっきしですな」
煽る様に言うウィリアムの一言にオリビエは更に頭に血が上り剣で斬り掛かる。精細さを欠いた剣筋ではウィリアムの相手にもならずレイピアで剣を弾き飛ばされてしまう。
「チェックメイトですな」
喉元にレイピアを突き付けられたオリビエは身動きを取れずにいた。このまま動けばレイピアで喉を貫かれてしまう。リリィを助ける事も出来ずにむざむざ殺されてしまう。
(ごめん・・・リリィ・・・)
助けようと割って入ったのに、返り討ちにあってしまった自分の不甲斐なさを恨みリリィの方を見る。
僅かだが、リリィの手が動きウィリアムに右手を翳しているのが見えた。
「こ・・・れで・・・終わ・・・り・・・です」
リリィの右手から魔力が放出される。術式を組む事無く放たれた魔力の奔流はウィリアムを飲み込みネックレス状の魔導具をも破壊しそのまま壁に激突しウィリアムは力なく倒れる。
「リリィ!?」
「ほよ・・・オリ・・・ビエ・・・」
辛うじて意識を取り戻していたリリィは魔力暴走を意図的に引き起こす為にオリビエがウィリアムと戦っている隙に魔力を右手に集中させていたのだ。
リリィはゆっくりと立とうとするが、斬られた箇所が痛み苦痛の表情を浮かべ倒れそうになってしまう。それをオリビエがしっかりと支える。
「大丈夫?」
そのままオリビエはリリィに治癒魔法を施す、傷口は塞がったが失血量と魔力を使い果たしたリリィを優しく抱き留めたまま、所謂お姫様抱っこをしてオリビエは静かにその場を離れ、学院の寮へと向かった。
道中は沈黙だった、リリィはまだ意識がハッキリしておらず朦朧としている状態だった。オリビエは早急にリリィを治療したい一心で足早に学院へ向かう。
しかし、オリビエは別の意味で早く学院へ戻りたかった。
先ほどの戦闘でリリィの服はあちこち裂けており時折覗く白い肌に思わず視線が吸い寄せられそうになるのだ。
(いや、馬鹿か私は。これでは・・・ただの変態じゃないか!)
必死に雑念を払い、オリビエは自身の上着をリリィに羽織らせる。
(ほよ、オリビエの匂い・・・)
ふわりと香るオリビエの匂いに安心したリリィは再び意識を手放した。
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