【第7章-7】襲う刃と一閃
ヘクターが上手く立ち回ってくれているお蔭なのか周囲に人は居なかった。
(幻影魔法で姿隠せば大丈夫かな・・・?)
幻影魔法の類はそこまで得意では無いが、リリィはこういう時こそ使い時と思い発動する。
(まずは外に出ないと・・・)
リリィはゆっくりと足音を立てず廊下を歩く。遠くではヘクターが戦っているのか、怒号が聞こえる。ここで立ち止まる訳にはいかない、シーナとヘクターが作ってくれた脱出の機会を逃す訳にないかなかった。
屋敷から出る為に鍵の掛かっていない扉が無いか探す。しかし、殆ど施錠されておりバレずに屋敷から脱出するのが困難だった。
(なにかいい方法ないかな・・・?)
扉の前で立ち止まり唸り声をあげ考えるリリィだが、良い方法は思いつかずにいた。
すると、モノクルを身に着けた老齢の男性がゆっくりと扉の方へ近づいて来た。
(あの人、私を攫った・・・)
男性は、リリィを馬車に誘った男だった。男は扉の前に立ち止まる。
「はて、何か気配を感じたが・・・気のせいか・・・」
リリィは見つかったのではないか肝が冷える思いだった。男は扉を開け、屋敷の外に出て行く。施錠もせずに出た事でリリィはチャンスと思い外へ出る。
扉をゆっくりと開けて外に出るリリィはそのまま屋敷の敷地から出ようとする。
(このまま逃げれば・・・)
浮遊魔法で飛ぼうとした時、物陰から先ほどの男性が姿を現す。幻影魔法で姿を隠している筈なのに男性はリリィの方をしっかり見据えていた。
「隠れても無駄ですよ。先ほども扉の近くに居た事も分かっていました」
そう言い、男性はリリィに向けて雷魔法を放つ。まさか誘き出された事にリリィは苦虫を嚙み潰したような顔をする。
「どうして・・・分かったんですか・・・?」
リリィは幻影魔法を解除して男性に聞く。男性は「はっはっは」と笑い、自身が身に付けているモノクルを指でトンと触れる。
「これは魔力を視る事が出来るのですよ。貴女の幻影魔法もこれで見破れます」
「私を外に誘い出して、どうするつもりなんですか?」
「屋敷で貴女を攻撃したら危ないですからね、貴女の力の程は知っています。だから外に誘き出したんですよ」
そう言い男性は雷魔法でリリィを攻撃する。
「無駄です」
リリィは男性を見据えながら防御魔法を展開し防ぐ、男性は表情を変えず寧ろ感心したようにリリィの防御魔法を見る。
「流石、終焉の魔女に鍛えられただけはあって堅牢な防御魔法ですね。ですが――貴女は勘違いしている」
そう言うと、男性は懐から十字架状のネックレスを取り出す。
「どれだけ魔法の威力が凄まじかろうと、阻害されては無力ですよ」
「――!」
リリィが展開している防御魔法が砂の様に崩れ落ちていく。
――魔法阻害
リリィが厄介な魔導具と認識してはいるが、それを使われると無力になってしまうのは確かだった。
「この魔導具を使うと私も魔法を使えないのが難点ですが、こちらと併用すれば貴女を捕らえる事も出来ますよ」
男性はナイフ状の魔道具を取り出し振りかざす。すると、男性の周囲に氷の刃が展開される。
「ブラックモア公爵執事であるこのウィリアム・ランドルの手で大人しく捕まってください」
そう言いウィリアムは魔導具を振り下ろす、すると氷の刃がリリィを襲い始める。
リリィは何とか避けるが隙を突いてウィリアムが老齢とは思えない程のスピードで腰のレイピアを抜きリリィを斬り付ける。
「――!」
レイピアの一撃を避け切れず、リリィは右腕を斬られてしまう。傷は浅いものの破れた制服から、ぽたりと血が滴り落ちる。痛みに顔を歪めながらもリリィはウィリアムを見据える。
「安心してください、我が主の命で貴女を殺す事は致しません。ちょっと動けない程度に痛める程度なのでご安心ください」
何も安心できる事では無いと、リリィは口に出そうになるがぐっと抑え逃げる隙を伺う。
(魔法は使えない・・・あの時みたいに魔力暴走で倒すしか・・・)
以前、ヘクターに襲われた際に魔力暴走を意図的に起した事を思い出す。しかし、今回は相手が氷の刃とレイピアで攻撃をしてくる。魔力を集める隙があるかどうかだった。
ウィリアムは尚もレイピアでリリィを襲うも、リリィは何とか回避する。
「この剣から逃れても、氷の刃があるのをお忘れなく」
ウィリアムが左腕を天高く掲げる。氷の刃がリリィの周囲を囲い逃げ場を塞ぐ。
(うそっ・・・!?)
「これで大人しくしてください」
そう言い左腕を振り下ろすと同時に、氷の刃が一斉にリリィに向かい襲い掛かる。
「きゃっ!?」
リリィは防ぐ事も出来ず直撃してしまう。幾つもの氷の刃が容赦なく切り裂いていった、服は破れ所々血が滲む、尚も礫は容赦なくリリィを襲う。
「あぅ・・・ぐぅ・・・!?」
全身の痛みに耐えられずリリィは倒れてしまう。起き上がろうとするも、ウィリアムが近づきレイピアで素早くリリィの手足を斬り付ける。
「ひぐっ!?」
斬られたリリィは悲鳴をあげながらうつ伏せに倒れる。斬られた場所から血が溢れてくる。
「これで貴女も動けないでしょう」
「あ・・・ぅ・・・」
血を流し過ぎたのか、リリィの意識は遠のく。
(やだ・・・こんな所で・・・オリビエ・・・)
薄れゆく意識の中で、リリィが最後に見た光景はウィリアムの前に立ちはだかる影だった。そして、リリィの意識は途切れてしまう。
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