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【第7章-6】ベアトリクスの残した物

結界の先は箪笥の奥は薄暗くも明かりの灯る魔導具により辺りが小さく照らされている。


整然と並ぶ本棚。中央の丸テーブルには、一枚の羊皮紙と、古びた手帳が置かれている。


「凄い・・・師匠が、こんな隠し部屋を作っていたなんて」


シーナが、感嘆の声を漏らす。


「これ、繋がりの魔法ですね。箪笥から別の場所に繋がる様になってます」


リリィも感心しながら周りを見渡す。


「公爵の後ろ盾があったとは言え、流石は四賢者と言ったところね」


そう言いシーナはテーブルに置かれている羊皮紙を手に取る。


「これが契約書ね」


羊皮紙に書かれた内容を見たシーナは、これこそが”裏切れない契約”の契約書だと確信する。


「師匠が公爵に危害を加えた場合、死ぬ・・・それに公爵の命令に絶対服従する・・・」


内容をかいつまんで話すシーナにリリィは背筋が凍る思いだった。そんな禁術を使っていたなんて。


「酷い・・・です」


そんな言葉しか出ないくらいリリィはこの禁術が恐ろしく感じていた。


「そうね・・・でも、これで公爵を倒す一手が手に入ったわ」


10年前、ベアトリクスは反逆の魔女として民衆から蔑まれた。ベアトリクスは死後も貴族を襲った大罪人として語られている。それをこの契約書で晴らせるのなら・・・


「シーナさん、これ・・・」


リリィがテーブルに置かれた手記をシーナに手渡す。それはベアトリクスが生前に書き残したであろう古ぼけた物だった。


シーナは静かに手記を読んでいく。


無理矢理”裏切れない契約”を結ばされたこと、弟子であるエレナを公爵の妾として出してしまった事への後悔、エレナを助けられなかった事への謝罪。


読み進めるうちにシーナは涙を流していた。


そして、”ブラックモア公爵と、予言の魔女自身を殺す強大な魔力を持った少女”と言う予言を見てしまいリリィを殺そうと決意してしまったこと、そして――罪の無いリリィを殺す事への謝罪が記されていた。


「師匠・・・」


震える手で手記を読んでいたシーナの足元に一枚の紙がひらりと落ちる。


シーナが拾い読むと、そこにはヘクターとシーナへ宛てた手紙だった。


『シーナ、ヘクター

貴女達がこの手紙を読んでいる頃、私はもう死んでいると思うわ。私は公爵の命令で予言に出た少女を殺すでしょう。その後、公爵を殺して私も死ぬ。

私は公爵とある契約を結び四賢者となった。本当は駄目だと言う事も分かっていたわ。でも、生き残るにはそうするしかなかった。

それから貴女達やエレナを弟子にしたけれど、エレナは無理矢理公爵の妾にさせられ亡くなった。許されない事をしたのは分かっているわ。だから、私が死んだ後、貴女達が公爵から逃げて笑顔で幸せに暮らしていける事だけを願っている。貴女達はエレナの分まで、生きて

ベアトリクス・アルジェント』


10年越しの手紙にシーナは泣き崩れる。師匠は最後の瞬間まで、弟子である自分達を案じていた。


「師匠・・・」


シーナは手紙を胸に抱きしめ目を瞑る。ベアトリクスとの思い出を噛みしめながら、シーナは立ち上がる。


「公爵はまだこの隠し部屋の存在を知らない。私はヘクターともう少し証拠を集めるわ。だから、貴女はヘクターが陽動している間に逃げなさい」


シーナは優しくリリィに言い契約書を渡す。リリィとしてはシーナと共に脱出したいと思っていたのだが、シーナの意思は固かった。


「私も予言の魔女の弟子・・・何とか乗り切ってみせるわ」


ヘクターも同じ想いよ、と付け加える。


「シーナさん、助けてくれてありがとうございました・・・ご無事で・・・」


そう言いリリィは深く一礼をして、シーナとヘクターの無事を祈りつつ廊下に出る。

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