【第7章-5】 伸ばされた救いの手
目を覚ました時、リリィがいたのは薄暗い地下牢だった。
膝をついた体勢のまま、両手は頭上で鎖に固く縛りつけられている。手首に感じる冷たい感触は、あの魔法阻害の魔導具だ――今の自分には、魔法という手段は一切使えない。
(どうしよう・・・)
じわじわと、不安が心を蝕んでいく。
(あの時・・・少しでも疑えば良かった)
執事に手を取り、あっさりと馬車に乗り込んでしまった自分。淡い期待に浮かれていた自分。後悔しても、もう遅い。
こみ上げる心細さに、リリィの目からぽろりと涙がこぼれ落ちた。
(逃げる、チャンスは・・・)
必死に周囲を見渡すも、魔法を封じられた今、リリィにできることはほとんど何もなかった。
その時――かつかつと、誰かの足音が近づいてくる。
(まさか・・・公爵・・・?)
身構えるリリィの視界に、しかし現れたのは、意外な人物だった。
「リリィちゃん、大丈夫?」
「――!」
見上げたリリィの目に映ったのは、学院祭りで自分を毒殺しようと――しかし、躊躇っていた、あのシーナの姿だった。
「あ、貴女は・・・」
驚くリリィに構わず、シーナは素早く鍵を取り出し、牢の扉を開ける。続けて鎖を解き、腕に取り付けられていた魔導具を、迷いなく叩き割った。
「こっちよ」
そのままリリィの手を取り、シーナは足早に屋敷のある部屋へ向かって歩き出す。その向かう先はベアトリクスが残した使用していた部屋だ。
使用人に見つからない様に隠れながら部屋へ辿り着いたリリィは、またも意外な人物と会う。
「ヘクター先生・・・」
複雑な表情を見せるヘクターにリリィは驚く。以前、自分を襲った事で憲兵に捕らえられたと聞いていたのに、何故?と言う表情でヘクターを見る。
「言いたい事は大体分かる。お前の師匠に助けられて、今は協力している」
手短に言うヘクターにリリィは更に驚く。まさかマリアンヌがヘクターを助けただけでなく、協力関係を結んでいるなんて。
知らないところでマリアンヌが動いていた事に驚きつつも、自分の事を想ってくれての行動なのだろうと嬉しく思う。
「もしかして師匠はヘクター先生と協力して契約書を探してるんですか?」
以前、マリアンヌがベアトリクスの汚名を晴らす一手となると言っていた契約書の事を思い出す。それをヘクターと探していると言う事だろう。
「先生はやめてくれ」
そう言いつつヘクターはリリィを箪笥に行くよう促す。
「俺たちの師匠はこの箪笥に結界を張った。その先に契約書があると、俺たちは睨んでる。だが、結果の解除に難航しててな」
ヘクターが説明すると、リリィはそっと箪笥の奥にある結界に触れる。パチリと弾かれてしまい思わず手を引く。
「これを解除するんですね」
リリィが静かに言うと、シーナは優しく言う。
「そうよ、占星術で貴女が危機に陥り結界を解除する一助になると出たの。きっと貴女なら解除出来ると思うわ」
その一言でリリィは驚きつつも今度は手に魔力を集中させ結果に触れる。術式は複雑ではあるが、今まで散々マリアンヌに術式の解読をさせられていたリリィにとっては術式を解読するのも慣れていた。
「これ、二人の魔力を流すと解除出来る変わった結界です。もしかしたら、シーナさんとヘクター・・・さんの魔力を流せば解除出来るのかもしれません」
「何だって!?そ、そんな事で解除出来るのか」
ヘクターは驚きの声をあげる。シーナもまた驚いていた。
「きっと師匠は私たちがこの結界を解除する事を想定して作ったのね・・・」
「姉さん、クローデルが逃げたと奴らにバレる前に解除しよう」
そう言いヘクターはシーナと共に結界に手を伸ばし魔力を流す。
すると、結界が淡い光を放ちカチリと言う音と共に結界が解除される。
「やった、これで・・・」
結界の先に行ける、そう思っていたのだが廊下から慌ただしい足音が聞こえる。
「気づかれたようね」
シーナが静か言うと、ヘクターが扉の方に向かって歩き出す。
「姉さん、クローデルと一緒に結界の先に行ってくれ」
「駄目よ!貴方を囮にするだなんて!」
止めようとするシーナにヘクターは笑顔を見せる。
「俺は一度死んだようなものだ、それに・・・あのクソ公爵に一矢報いたい」
「でも!?」
「俺が陽動するから、契約書を見つけて屋敷から逃げるんだ」
そう言いヘクターはリリィの目を見る。
「クローデル・・・すまなかった・・・」
それだけ言い、ヘクターは部屋を飛び出し使用人たちを部屋から遠ざける。
「行きましょう・・・」
ヘクターの行動を無駄にはしないと小さく呟きシーナは結界の先に向かう。リリィもヘクターの無事を祈りつつシーナに続いて行った。
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