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【第7章-2】それは悲しい報せ

翌日、リリィが魔法薬の授業で盛大に薬を爆発させ、ジョシュアにこってりと絞られていた。


「えぇい!リリィ・クローデル!!貴様はいつも魔力を込め過ぎだと言っているだろうがっ!!」


「ほよ・・・すみません」


「全く、炎魔法を克服したのは素直に認めてやろうと思っていたが・・・そのイカれた魔力を制御出来ねばまだ認められん!」


ジョシュアはリリィがロナを助ける為に炎魔法を放ったと聞いた時は内心嬉しかった。”あの”リリィが自分の為ではなく、誰かの為にトラウマを乗り越え炎魔法を克服したと聞いた時は素直にリリィの実力を認めたかった。


のだが、魔法薬を作るのにジョシュアはリリィに『魔力を込め過ぎるなよ』と忠告したのにも関わらず、魔力を込め過ぎたが故に爆発させてしまったのだ。


学院長に何て説明すれば良いんだ・・・と頭を痛めていた。本人に悪気があってやった訳ではないのが尚厄介だ。ジョシュアは深いため息をつくしかなかった。


「もういい・・・今度は気を付けるように・・・」


力なく言うジョシュアにリリィは申し訳ない気持ちになりつつ「はい」と小さく返事をし教室を後にした。


――


寮の談話室では、ロナ、ミリアム、ティオの三人が、深刻な顔を突き合わせていた。


「まさか、ミリアムがオリビエ様とお見合いだなんて・・・」


貴族社会では珍しくもない話だが、それでも今回は事情が違った。


「しかも、リリィが演劇を見に行く日なのよ。困ったわ」


ミリアムが重いため息をつく。彼女としても友達であるリリィが自覚していないと言っても好意を抱いている相手との縁談なんて本当はしたくない。


「この話は・・・リリィには、内緒にした方が良いかも・・・」


おずおずと、ティオが提案する。


「そうね」


ミリアムが頷いた。この件をリリィが知ったらきっと悲しむだろう。


「私は、日にちを変更できないか、お父様に相談してみるわ」


「――え」


不意に、三人の背後から声がした。


「ミリアム・・・オリビエと、お見合い・・・するの・・・?」


「――!」


既に遅かった。


弾かれたように振り返ると、そこにはリリィが立っていた。その表情は、隠しきれないほどの悲しみに沈んでいた。


「いえ、それは・・・」


慌てて説明しようとするミリアムだったが、リリィはそれを遮るように口を開いた。


「オリビエとミリアムって、お似合いだと思うよ」


無理やり作った笑顔だった。


「オリビエも、ミリアムを演劇に誘えば良かったのにね」


今にも泣き出しそうな声でそう言い残すと、リリィは足早にその場を離れ、自室へと戻っていった。


――


部屋に戻るなり、リリィはそのままベッドに倒れ込み、静かに涙を流した。ジョシュアに怒られた事など頭から吹き飛ぶくらいの衝撃だった。


(お似合いなのに・・・本当は、喜ぶべきなのに・・・)


なぜ、こんなにも胸が苦しいのだろう。


(何で、こんなに・・・悲しいんだろう・・・?)


オリビエは貴族で、自分は平民。釣り合うはずがない――そんなことは、頭では十分に理解している。ミリアムとの縁談も、身分を考えれば、ごく自然な話のはずだ。


それなのに。


この感情の正体が分からないまま、リリィはいつしか、涙に濡れた頬のまま眠りについていた。


――


夜が明け、いつも通りに授業を受けるリリィだったが、心はどうしようもなくもやもやとしたままだった。


(友達がお見合いするのに・・・素直に喜べない・・・)


(私、どうしちゃったんだろう・・・?)


授業もろくに身に入らないまま、ぼんやりと窓の外を見つめるリリィの様子に、三人は密かに視線を交わしていた。


(オリビエ様は、この縁談をどうするつもりなのかしら・・・)

(私としては、さっさと破談にして欲しいわ)

(でも・・・そんなに簡単に、破談って出来るんですか・・・?)


ティオの問いに、ロナとミリアムは揃って首を横に振った。


「今回の場合ね」


ロナが小声で説明する。


「ミリアムの方から断りを入れるのは、相手――つまり、アークレイン公爵家の顔に泥を塗る事になるのよ。だから、オリビエ様がどう動くかが、鍵になるわ」


――


一方その頃、当のオリビエは、自室で頭を抱えていた。


(破談という手もあるが・・・それでは、公爵家の面子が・・・)


公爵家の子息として背負う責務。そして、自分自身の胸の中にある、はっきりとした想い。その二つが真正面からぶつかり合い、答えが出せずにいた。


「――せめて」


しばしの逡巡の後、オリビエは静かに顔を上げた。


「日取りの変更だけでも、父に頼まなければ」


決意を固めるように、オリビエはペンを手に取った。


演劇の日だけは、絶対に譲れない。リリィとの約束を、何としてでも守り抜く――その一心で、オリビエは父への手紙を書き始めた。

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