【第7章-1】世間ではそれをデートと言う
午前の授業を終え食堂へ向かう者、中庭で昼食を食べる者、それぞれが休み時間を満喫し始める頃。リリィもロナたちと共に、いつも通り食堂へ向かっていた。
「リリィ、ちょっと良いかな?」
呼び止めたのは、オリビエだった。
「ほよ?どうしたの、オリビエ」
トコトコと駆け寄ってくるリリィの姿に、オリビエの胸がきゅっと締め付けられる。その愛らしさに思わず頬が緩みそうになるのを、必死に堪えながら、努めて普段通りの態度を装った。
「実は、演劇のチケットを二枚貰ってね」
貰ったと言うのは方便で、オリビエは密かにチケットを二枚調達したのだ。当然、リリィはそんな事を知らずオリビエの話を聞く。
「うん」
「一緒に、どうかな?」
――努めて自然に、そう告げたつもりだった。だが、その口調はどこかぎこちなく、微かに硬さが滲んでいた。
「演劇?私と?」
きょとんと首を傾げるリリィ。
「うん。リリィは、演劇とか興味なかったかな?」
断られはしないか、内心で冷や冷やしながら答えを待つオリビエをよそに、リリィは考え込むように黙り込んだ。
(演劇なんて、行った事ないな・・・でも、行ってみたい)
そして――何より。
(オリビエからのお誘い、なんだか・・・断りたくないな)
「私、演劇見てみたいな」
はにかみながら答えるリリィに、オリビエは飛び上がりたくなるほどの喜びを、必死に平静の下へと押し込めた。
「良かった。じゃあ、今度の休みに行こう」
爽やかな笑顔で告げるオリビエに、リリィも笑顔で頷く。
「うん、楽しみにしてるね」
その一部始終を、周囲の生徒たちがそっと見守っていた。
「オリビエ様がリリィと!?」
「でも、オリビエ様って・・・」
「あぁ〜、俺たちのリリィちゃんが〜」
男女それぞれに違う反応を見せながら、その噂は、瞬く間に学院中を駆け巡っていった。
――
「それで?オリビエ様と、何の話だったの?」
食堂の席に着くなり、ミリアムが前のめりに問い詰める。リリィが来るまでミリアムは「きっとリリィと何処か出掛ける為に呼び止めたのよ」と興奮気味に言っていた。
「オリビエと演劇行くことになったよ。私、初めてだから楽しみ」
パンを頬張りながら、リリィは屈託ない笑顔で答える。
「それって、デ――」
思わず口を滑らせかけたミリアムを、ロナが慌てて手で塞いだ。
「二人で行くの?」
すかさずティオが尋ねる。
「うん、チケットが二枚あるからって言ってたよ」
あっけらかんと答えるリリィに、三人は顔を見合わせた。
(やっぱり、デートよね・・・)
(でも、何だかリリィは普通に遊びに行く感覚だわ・・・)
(デートに誘われたって自覚、あるのかな・・・?)
こそこそと囁き合う三人に、リリィはきょとんと首を傾げる。
「ほよ?どうしたの?」
「い、いえ。何でもないわ」
慌ててロナが話題を逸らした。
「リリィ、当日はドレスコードが必要だから。ドレスはまた、私のを貸してあげるわ」
「本当!?ありがとう、ロナ!」
えへへと嬉しそうに笑うリリィを見つめながら、三人は密かに、また心の中で拳を握りしめていた。
――
その頃、オリビエのもとに一通の手紙が届いていた。
「父から? 何だろう」
差出人は、アークレイン公爵――オリビエの父ザイ・ベザリウスからのものだった。開封し、中身に目を通した瞬間、オリビエの表情が凍りついた。
「――何だって!?」
震える声で、紙面を見つめ直す。
「私と・・・サゴット嬢との・・・お見合い・・・?」
オリビエとミリアムの縁談が来たと言う。確かに公爵家の者なら縁談なんて来るのは有り得ない話ではない。問題は、その日付が――よりにもよって、リリィとの演劇に約束していた、まさにその日だった。
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