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【幕間5】開かずの結界

公爵邸へと戻ったシーナは、ブラックモア公爵の前に静かに跪いた。


「毒殺は失敗いたしました。監視者であるケビン・アルバレアも――教員たちの手により拘束されました」


「あの役立たずめ」


――それは、あえての報告だった。もし、あの場でリリィの友人たちがケビンを拘束したと正直に告げれば、次はリリィだけでなく、彼女の大切な友人たちにまで刃が向けられることになる。それだけは、シーナは避けたかった。


「何故、おめおめと逃げた? 貴様が始末すれば良かったではないか」


公爵の声には、隠しきれない苛立ちが滲んでいた。


「申し訳ございません。あの場では目立ってしまい……殺せず、撤退いたしました」


淡々と告げるシーナの頬に、乾いた音と共に、公爵の平手が振り下ろされる。


「――!」


赤く腫れ上がった頬を押さえながらも、シーナは表情一つ変えなかった。


「この役立たずめが」


公爵は吐き捨てるように言うと、しばし黙り込んだ。本来であれば、この場で始末してもおかしくない失態だった。だが――ヘクターを失い、ベアトリクスの弟子として残るのが、今やシーナただ一人となった以上、公爵は彼女を手放すわけにはいかなかった。


それだけ、公爵は――予言の魔女が遺した”予言”そのものを、恐れていた。


「もうよい。貴様には、引き続きベアトリクスが隠した”物”の捜索をせよ」


「――畏まりました」


深く頭を垂れながら、シーナは内心、静かに拳を握りしめていた。


――


シーナはベアトリクスが施した結界を解除しようと試みていた。


(かなり高度な結界・・・それだけ公爵に知られたくない何かがあるのね・・・)


かつてのベアトリクスが公爵の後ろ盾とは言え、四賢者としての実力があった事が伺える。


「姉さん、結界の方はどう?」


音も無くヘクターが部屋に入って来た。この結界についてヘクターはマリアンヌに聞いて見たのだが『構造を見ないと分からないけど、きっと何とかなる』と何とも頼りない、しかし何処か確信めいた様に言っていた。


「ダメね、構造が複雑で下手に解除しようとすれば何が起きるか・・・」


解除に失敗して何か起きれば公爵に感づかれてしまうかもしれない、それは避けたい。


「クソッ、この結界さえ突破出来れば・・・」


ヘクターは悪態をつきつつ拳を握る。焦りとやり場の無い怒りを何処にぶつければ良いのか分からずにいた。


「ヘクター、焦ってはダメよ。時間は掛かるけど、必ず解除しましょう」


それでもシーナは冷静にヘクターに言う。こういう時、姉弟子である自分が冷静にならねばと思いつつも、その表情には焦りが見えていた。


そして、シーナは目を閉じ占星術を始める。この状況を打開するにはどうしたら良いか、占おうと考えたのだ。シーナとヘクターの周辺には綺麗な星の光が散りばめられる。


シーナは優しく、ゆっくりと手を伸ばす。指先に意識を集中し、この結界を解除する術を探す。


「あの娘、近いうちに危機に陥る・・・それが結界を解除する一助になる・・・」


具体的な事までは分からなかったが、リリィに迫る危機から結界の解除に至ることは分かった。シーナが小さく呟くと、ヘクターは怪訝な顔をする。


「クローデルが危機になる?それが結界とどう関係が・・・?」


歯切れの悪いヘクターにシーナははっきりと言う。


「私はあの娘に助けられた・・・今度は私が彼女を助ける番・・・それに、彼女を助ける事で結界を解除出来るなら・・・私は彼女を助けるわ」


そう言いシーナはヘクターと共にリリィが危機に陥ったら助けると決意した。


――


ブラックモア公爵は焦っていた。自身が駒として利用していたケビンも捕まり、シーナに毒殺かリリィを連れて来ると命令したのにも関わらず失敗。このままでは自身の身が危うくなって来てしまう。


「役立たずの平民共め」


怒りの滲んだ悪態をつき机を叩く。そして公爵はベルを鳴らし、秘書を呼びつける。


「あの小娘を無理矢理にでもここへ連れてこい」


公爵は秘書に命令する。


”公爵を殺す”と言う占いの結果を聞いてから、公爵はいつ自分が殺されるか怯えていた。近年、アークレイン公爵が掲げる『平民の地位向上政策』により貴族と言う地位が脅かされ、権威が失墜するのではないだろうかと焦りもあった。


「奴らの好きにはさせん・・・」


公爵はそう小さく呟き、手紙を取り出し羽ペンを走らせる。


「あの平民の話ではアークレイン公爵の小僧と小娘は仲が良いらしい。この手紙で小娘を孤立させて攫うのだ」


秘書に手紙を渡し公爵は一息つく。


(これで奴の占いを覆してやる・・・)


不気味に笑う公爵をよそに、秘書は一礼して部屋を出て行った。

ここまでお読みいただきありがとうございます!次回投稿は新章突入になります。リリィに迫る危機とは一体どの様なものか、是非楽しみにして頂けると幸いです。面白いと思っていただけたら、ぜひ『ブックマーク』や『評価(☆☆☆☆☆)』をよろしくお願いします!

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