【第6章-10】確かな想い、不確かな想い
ふと目を覚ますと、窓際の椅子で、オリビエが静かに寝息を立てていた。
(あれ・・・オリビエ、こんな所で・・・)
寝顔をぼんやり眺めているうちに、昨晩お姫様抱っこで運ばれた記憶が、うっすらと蘇ってくる。あの時の、しっかりとした腕の感触。心臓のすぐ近くに感じた、規則正しい鼓動。
「――!」
思い出した瞬間、リリィの頬がかあっと熱くなった。
(ほよ、私。どうしちゃったんだろう)
胸の鼓動が、いつもより速い気がする。自分でもはっきりとそれが分かるほどに。
(まだ、毒が残ってるのかな・・・?)
そう自分に言い聞かせながら、リリィはゆっくりと体を起こした。
「あれ、リリィ。もう大丈夫?」
物音で目を覚ましたオリビエが、寝起きとは思えない爽やかな笑顔を向けてくる。
(何でこの人、寝起きでもこんな爽やかなんだろう・・・)
そんなことを内心で思いながら、リリィは慌てて答えた。
「う、うん。もう大丈夫だよ。ありがとう、オリビエ」
昨日のことを思い出し、深く頭を下げる。
「気にしないで」
オリビエは、優しく目を細めた。
「リリィが辛そうにしてたから、つい・・・」
「ほよ、私・・・重くなかった・・・?」
恐る恐る尋ねてみると、オリビエはくすりと笑った。
「いや、羽根のように軽かったよ」
「リリィ、大丈夫?」
そこへ、ロナたちが慌ただしく駆け込んできた。
「ほよ、皆。大丈夫だよ」
にっこりと答えるリリィだったが、その視線の先――部屋の中にオリビエの姿があることに気づいた三人は、揃って目を丸くした。流石に寮へ戻っていると思っていたのに、何故まだ居るのかと疑問に思っていた。
「オ、オリビエ様。昨日は、リリィを運んでくださって、ありがとうございました」
ロナが慌てて礼を述べる。
「いやいや、私もリリィの事が心配だったからね」
オリビエは爽やかに笑いながら、さらりと続けた。
「つい体が動いてしまったよ。それから、付きっきりで診ていたからね」
「「「――!?」」」
その一言に、ロナ、ミリアム、ティオの動きが一斉に止まった。
(つまり・・・リリィが眠る医務室で、二人っきりで、一晩・・・?)
三人の間に、無言の衝撃が走る。
(オリビエ様・・・まさか、リリィの事が・・・?)
(そのまさか、かも・・・今までの言動とか、考えると・・・)
(でも・・・当のリリィは、どうなんだろう・・・?)
コソコソと目配せを交わしながら、三人は密かに囁き合う。
「どうしたの?三人でコソコソと・・・?」
不思議そうに首を傾げるリリィに、三人は慌てて取り繕った。
「な、何でもないよ!」
そんな三人を見てクスリと、オリビエは笑っていた。
処置が早かったこともあり、リリィはその日のうちに寮へと戻ることができた。
――
自室へ戻ったオリビエはエリオットからその後の事を聞く。
ケビンは拘束され憲兵に引き渡された事、しかし彼もまた利用されていた側の人間、情状酌量の余地がある事を加味した上で処罰されると言う。
「そうか、それなら良かった」
きっと、処刑と言う最後を迎える事をリリィは望んではいないだろう。そう判断をしたからオリビエはケビンに酌量の余地を進言した。
「しかし、まさかずっとリリィに付きっきりになるとはな」
半ば呆れた表情でエリオットが言う。
「え、あぁ・・・またリリィを狙った刺客が現れたら大変だからね」
その言葉を聞いて、エリオットの顔が険しくなる。
「それは・・・友達としてか?それとも――?」
リリィに惚れての行動か?と言わずとも顔に書いてあった。
オリビエは一瞬、言うのを躊躇いそうになったが、大きく一つ深呼吸をする。
「そうだ、私は彼女に異性として好意を持っている」
その真剣な返事に、エリオットは一瞬言葉を失った。まさか本当にリリィに惚れていると思っていなかった。
「おいおい、マジかよ・・・」
頭を抱えるように片手で顔を覆う。
「オーリ、あいつは・・・」
平民の出であるリリィと次男とは言え公爵家の子息であるオリビエとは、あまりにも立場が違いすぎる――そう言いたげな表情だった。
「分かってる」
オリビエは、静かに、しかし迷いなく答えた。
「でも――この想いは、確かなんだ」
その真摯な瞳に、エリオットはそれ以上何も言えなくなり、ただ深いため息と共に、頭を悩ませるのだった。
――
一方その頃、リリィもまた、ロナたちに囲まれ、尋問――もとい質問攻めに遭っていた。
「リリィ、貴女。オリビエ様の事、どう思ってるの?」
興奮気味に問い詰めるミリアム。
「ほよ?オリビエは・・・」
いつもなら、迷わず「友達」と答えるはずだった。
だが。
「・・・友達、なんだけど」
言いかけて、リリィは言葉を止めた。
「でも・・・それだけじゃない、気がする」
胸の奥にある、この落ち着かない感情。名前をつけられないまま、じわじわと大きくなっていくそれを、リリィはうまく言葉にできずにいた。
もやもやと眉根を寄せるリリィの様子を見て、ロナ、ミリアム、ティオは、そっと顔を見合わせた。
(これって・・・リリィも・・・?)
(ええ・・・間違いないわ)
(でも、まだ・・・自覚してないっぽいよ)
コソコソと視線だけで会話を交わした三人は、心の中でひそかに拳を握りしめた。
――こうなったら、私たちで応援するしかない。
三人の間に、静かな決意が芽生えていた。
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