【第6-9】守る意思、守りたい気持ち
よろよろと立ち上がったリリィをロナとミリアムが支える。その目線の先にはケビンが立っていた。
「やっぱり・・・ケビン先生だったんですね・・・」
ロナが小さく呟く。あんなに生徒に慕われてる先生なのに何故?と言いたそうだった。
「――あぁ、そうだ」
普段の爽やかさは無く、思い詰めた様な表情で青年――ケビンは言う。
「あの時・・・毒尾蠍を操ったのも・・・先生・・・なんですね・・・」
リリィは毒の影響で肩で荒い呼吸をする。それでも、リリィはケビンへの警戒を忘れず防御魔法を維持する。
「それだけじゃない、彼は刺客を潜入しやすい様に誘導したりしていたわ」
静かにシーナは言う。リリィたちはまさかそこまでケビンが関わっているとは思っておらず思わず驚きの声を上げる。
「エリオットも・・・先生が・・・操ったんですね・・・」
リリィはエリオットが何者かに操られオリビエを襲った事を思い出す。きっと精神支配の魔導具で操ったのだろう。
「あぁ、そうさ」
全てを諦めたのか、ケビンは冷徹な笑みを浮かべる。リリィたちの背筋が凍る。
「どうして!?そんな事を!?」
ミリアムの悲痛な叫びが木霊する。平民出身なのに博識で、ちょっとおっちょこちょいな一面もあり生徒に人気のあったケビンがこんな事をするなんて信じられなかった。
「仕方ないだろう?平民出身がこの学院で教鞭を取る。簡単にはいかない!公爵の後ろ盾があったから俺はここで教師が出来ているんだ!!」
ケビンは怒りにも似た感情をリリィたちにぶつける。
「だから公爵の駒になるのだって我慢したんだ!」
そう言いケビンは魔法を放ちつつ剣を抜きリリィたちを襲う。
しかし、魔法も剣もリリィの防御魔法により阻まれる。
だが――
リリィの集中力が切れてしまい防御魔法の維持が出来なくなってしまう。
(体が・・・重い・・・頭もふわふわ・・・する・・・)
毒の影響が想像していたよりもずっと深刻だった、ミリアムに解毒して貰えば何とか出来ると考えていたが、ここに来て算段の甘さを思い知らされる。
(私が皆を守るって・・・決めたのに・・・)
不甲斐なさからリリィの目には涙が溢れそうになる。術式を構築しようにもぼんやりする頭では普段の様な術式を構築出来なかった。
「大丈夫よ、リリィ――」
すると、ロナが優しく声を掛ける。ロナとミリアム、そしてティオが防御魔法を展開してケビンの攻撃を防ぐ。
「貴女に守ってもらうだけじゃない、私たちも貴女を守るわ」
「そうよ、私たちだって無力じゃないわ」
「うん、リリィの事が大切だから」
三人の言葉にリリィは胸がじんわりと暖かくなる。こんなにも大切に想ってくれる友達がいる事が、リリィには嬉しかった。
「私にも、リリィを守らせてくれないかな?」
不意にオリビエが現れ、ケビンを氷魔法を駆使し足元を凍らせ動きを止める。
「全く、俺らだってリリィの友達なんだろ?それくらいさせろ」
オリビエの隣にエリオットが立ち、ケビンを拘束魔法で捕らえる。
「アルバレア先生、貴方はどうしてブラックモア公爵の後ろ盾を使い教壇に立とうとしたんですか?」
オリビエは鋭い目つきでケビンを見据える。その眼光は流石アークレイン公爵の子息らしい威厳があった。
「俺は――この学院の採用試験に一度・・・落ちたんだ・・・」
ケビンは観念したように、静かに語り出す。
「周りには平民出身での快挙になるかもしれない、そう期待されていた・・・だけど・・・落ちた・・・」
平民として国内最高峰であるマクスウェル魔法学院で教鞭を取る事がどれだけ名誉な事か、リリィにはあまり分からなかったが・・・それでも、ケビンの口ぶりから彼が相当な努力を重ねていた事だけは伝わった。
「周囲は落胆して、俺に興味を失ったかの様に去って行った・・・そんな時だ、ブラックモア公爵の使者が俺の元に訪ねてきたのは・・・」
ケビンは小さく、そこから歯車が狂ったのかもしれないと呟く。そして公爵の魔手によって採用者の1人が行方不明になった。ケビンは繰り上げ採用と言う形で教鞭を取る傍ら、ブラックモア公爵の駒として革新派寄りであるこの学院に潜入させ情報収集やブラックモア公爵の邪魔になる障害を始末する事を行っていた。
「最初はベザリウスを狙った刺客を学院に忍ばせる手引きをしていた・・・そしてクローデル暗殺の為に刺客が潜入出来る様に学院の結界に綻びを作り忍ばせていた・・・」
まさかそこまでケビンが関わっていた事にリリィ達は驚く。しかし、オリビエは静かに聞いていた。
「貴方の罪は重い・・・しかし、貴方もまたブラックモア公爵の被害者でもある。情状酌量の余地があると、私も進言させてもらおう」
オリビエは冷たくも、しかしケビンを気遣うように言う。
「すまない・・・本当は・・・もうこんな事・・・したくなかったんだ・・・」
ケビンは顔を背け、震える声で言う。その目には涙が伝うのが見えた。
「貴女も、早くここを立ち去るんだ」
オリビエはシーナの方を見て言う。シーナはまさか見逃してくれるとは思っておらず目を見開く。
「リリィなら、そうすると思ってね」
笑顔で言うオリビエにシーナは頭を深々と下げ、急ぎ足で立ち去る。
リリィはシーナが逃げた事に安堵したのか、ロナの支えからずり落ちてしまう。
「リリィ!!」
座り込んだリリィにロナは再び支えようとするが、オリビエがそっとリリィを抱き上げる。所謂、お姫様だっこだった。
「リリィを医務室に連れて行く。ここはエリオットと君たちに任せる」
オリビエは爽やかな笑顔を向け去って行く。エリオットはやれやれと頭を掻きながら騒動を聞きつけたガルシア達に状況を説明していく。
――
ベッドにそっとリリィを寝かせると、オリビエは、乱れたその髪をそっと掬い上げた。
規則正しい寝息を立てるリリィの寝顔を見つめながら、オリビエの脳裏に、初めて出会った日のことが蘇る。自分を狙った刺客かもしれないとエリオットと共に会いに行った、あの日。
――こんなに小さな体で、これほどの魔法の資質を持っている。
最初に抱いた印象は、ただそれだけだった。純粋な興味、あるいは驚き。
こんな屈託のない笑顔を見せる娘が刺客とは思えなかった。
こうして共に過ごす時間を重ねるうちに、いつしかその印象は、まるで違うものへと変わっていった。
裏表のない明るさ。誰にでも分け隔てなく接する優しさ。屈託のない笑顔。そして――何度倒れても、決して諦めない、芯の強さ。
その全てに、気づけば惹かれていた。
(あぁ・・・私は、リリィの事が――)
その言葉を、静かに胸の中で結んだ瞬間。
この日、オリビエは、自分の中に芽生えていた想いの正体を――はっきりと、自覚した。
ここまでお読みいただきありがとうございます!面白いと思っていただけたら、ぜひ『ブックマーク』や『評価(☆☆☆☆☆)』をよろしくお願いします!




