【第6章-8】友達を信じる
「この毒薬を、私が飲んで――それでも失敗したら、どうなりますか?」
リリィの問いに、シーナは驚いたように目を見開いた。
「え・・・?この毒薬で、死なない人はいないはずよ」
戸惑いながらも答える。
「それでも失敗したなら・・・監視してる彼が、始末に来るでしょうね」
「――そうですか」
小さく頷くリリィ。その瞳には、既に何か覚悟めいたものが宿り始めていた。
「リリィ、ここに居たの?」
ちょうどその時、ロナたちが駆けつけてきた。会場のどこにもいないリリィを、心配して探し回っていたらしい。
「みんな、良かった」
ほっとしたように微笑むリリィとは対照的に、隣に座るシーナの姿に、三人は瞬時に警戒の色を浮かべた。
「リリィ、その人・・・」
――もしや、公爵の刺客ではないか。そう問いたげなロナに、リリィは静かに微笑んで答えた。
「そうだね、私を狙ってる」
「――!」
「でも、この人は悪い人じゃないよ」
驚く三人を制するように、リリィは続けた。
「だから、これから私のやる事は・・・この人のせいじゃないよ」
そう言うと、リリィはシーナの手にある毒薬の小瓶を、そっと取り上げ両手で持つ。
「後はお願いね、ミリアム」
まっすぐにミリアムの目を見つめ、リリィは静かにそう告げる。
一瞬、その言葉の意味が分からなかったミリアムだったが――リリィの手にある瓶に気づいた瞬間、全身の血の気が引いた。
「ダメよ!?リリィ!?」
叫んだ時には、既に遅かった。
リリィは、瓶の中身を迷いなく口に含んでいた。
「――!!」
シーナすら、まさか標的が自ら毒を口にするなど、想像すらしていなかった。呆然と立ち尽くすシーナをよそに、リリィの体は、ベンチからずるりと崩れ落ちる。
「リリィ!!」
即座に駆け寄ったミリアムは、震える両手で解毒の術式を組みながら、迷わずリリィの口に指を差し込み、無理やり毒を吐き出させた。
「ぐっ・・・ゲホッ・・・ゲホッ・・・!」
苦しげに咳き込みながらも、リリィの口から毒液が吐き出されていく。だが、ミリアムの表情は険しいままだった。
(まだ・・・体内に、残っているはず・・・!)
すかさず、追加で解毒の魔法を重ねがけする。淡い光がリリィの体を包み込み、荒かった呼吸が、少しずつ落ち着いていった。
「――う・・・」
やがて、リリィの容態が安定し、ゆっくりと目が開く。
「ありがとう・・・ミリアム・・・」
弱々しく紡がれたその一言に、ミリアムの目から、堪えきれない涙がぽろぽろと零れ落ちた。
「馬鹿っ!!何でそんな無茶を!!」
叫ぶような声だった。ロナもティオも、同じように涙を浮かべている。本気で、リリィが死んでしまうと思ったのだ。
「私が・・・毒を飲んで、ミリアムが解毒すれば・・・毒殺は、失敗するから・・・」
弱々しくも、リリィは微笑んで見せた。薬草学や魔法薬に精通しているミリアムの腕なら、絶対に自分を助けてくれる――そんな、揺るぎない信頼があったからこその行動だった。
「もう・・・そんな無茶、しないで」
ロナが、声を震わせながら言う。
「貴女が死んだら・・・皆、悲しむわ」
「うん、ごめんなさい・・・」
素直に頭を下げたリリィは、しかし次の瞬間、表情を一変させた。
「――でも、気を付けて」
その声と共に、リリィは皆を包み込むように、素早く防御魔法を展開する。
その直後――闇の中から、監視していた青年が、姿を現した。
ここまでお読みいただきありがとうございます!面白いと思っていただけたら、ぜひ『ブックマーク』や『評価(☆☆☆☆☆)』をよろしくお願いします!




