【第6章-6】ずっと続けば良いのに
舞台は、大盛況のうちに幕を下ろした。
拘束した刺客の身柄を引きずるようにして、オリビエはエリオットと共に足早にガルシアのもとへと向かう。
「やはり、紛れておったか」
低く唸るように、ガルシアが呟く。
「今回は、私を狙った刺客のようです」
オリビエは険しい表情のまま続けた。
「もしかしたら――リリィを狙った刺客も、紛れているかもしれません」
彼女の身の安全のためにも、今まで以上の警戒が必要だ。オリビエの脳裏には、既にそんな思いがよぎっていた。
「うむ、その可能性はある」
ガルシアは静かに頷く。
「しかし――君やリリィ君には、この学院の生徒として、学院祭を楽しんで欲しいと思っておる。刺客の事は、儂らに任せて、楽しむんじゃぞ」
そう言うと、ガルシアはすぐさまジョシュア、ケビン、リーシャに指示を飛ばし、警戒態勢の強化を命じた。
――
その頃、リリィたちはドレスに着替え、舞踏会の準備を進めていた。
「うん、似合ってるわよ、リリィ」
ミリアムが満足げに言う。
「えへへ、ロナが選んでくれたんだよ」
照れくさそうに、リリィがくるりと一回転してみせる。淡い水色のドレスの裾が、ふわりと優雅に広がった。
「わ、私も・・・どう、かな・・・?」
おずおずと、ティオが尋ねる。
「ほよ~、ティオなの?」
いつもの瓶底メガネを外したティオの素顔に、リリィたちは思わず声を上げた。
「貴女、メガネ取ると、かなり可愛いのね」
「いっその事、メガネ辞めちゃえば?」
ロナの提案に、ティオはぶんぶんと首を横に振る。
「い、嫌です・・・見えないと、不安で・・・」
そんなやり取りをしている間にも、周囲からはざわめきが広がっていた。
「あんな可愛い子いたっけ?」
「リリィ達といるって事は・・・あれ、ティオじゃないか?」
「嘘だろ!?あんな可愛い顔だったのかよ!?」
男子生徒たちの動揺した声が、あちこちから聞こえてくる。
「はぁ・・・男って奴は・・・」
呆れたようにため息をつくロナに、リリィは笑いながら言った。
「ティオは可愛いもんね」
「そ、そんな・・・」
真っ赤になって俯くティオを、四人は微笑ましく見守っていた。
――
そして、舞踏会が始まった。
きらびやかな会場を見渡しながら、リリィはオリビエの姿を探す。だが、視線の先に見つけたのは――大勢の女性に囲まれ、人だかりの中心にいるオリビエの姿だった。
(オリビエ・・・私と踊りたいって、言ってた・・・)
困惑した様子で対応しているオリビエを見つめながら、リリィの胸に、じわりと小さなもやもやが広がっていく。
(なんか・・・嫌だな・・・)
だが、すぐにその感情を打ち消すように、リリィは首を振った。
(でも、オリビエは貴族で公爵なんだし・・・私なんかじゃ・・・)
平民である自分など、あの華やかな輪の中には、到底釣り合わないのではないか――そんな思いが、リリィの心を小さく萎縮させる。
やがて、オリビエはなんとか女性たちの輪から抜け出し、まっすぐにリリィのもとへとやって来た。
「すまない、リリィ。少し、対応に追われてしまって」
申し訳なさそうに言うオリビエに、リリィは慌てて首を振る。
「大丈夫だよ。でも・・・良いの?私と踊って」
その瞳には、隠しきれない戸惑いが滲んでいた。他の貴族令嬢を差し置いて、平民の自分などと――そう言いたげに。
「大丈夫も何も」
オリビエは、迷いなく微笑んだ。
「私が、リリィと踊りたいんだ」
そう言うと、オリビエはそっと手を差し伸べる。
「じゃあ・・・お願いします」
リリィは、その手をそっと取った。
――
音楽が流れ始め、二人はゆっくりとステップを踏み始める。慣れないながらも、何とか踊れているリリィを、オリビエはしっかりとエスコートしていた。
「緊張しなくても良いよ。私が、ちゃんとエスコートするから」
爽やかな笑顔で言うオリビエに、リリィは思わず頬を緩めた。
「ほよ、やっぱりオリビエは上手だね」
「嗜みだからね」
さらりと答えると、オリビエはふと表情を和らげた。
「そのドレス、よく似合っているよ」
「ほよ、あ、ありがとう」
オリビエのその一言にリリィは照れくさそうに笑う。
「このドレスね、ロナが選んでくれたんだよ」
笑顔で言うリリィに、オリビエの心臓は弾み少し顔が赤くなった気がした。
「そうだ。公演、見に来てくれてありがとう」
そんな顔をリリィに悟られないように、オリビエは舞台の話に話題を移す。
どうやら、芝居をしながらも、オリビエは客席のリリィをしっかりと見つけていたらしい。
「ほよ、気付いてたんだね。格好良かったよ」
はにかみながら言うリリィに、オリビエは少し照れくさそうに笑った。
「ありがとう。私の方こそ、ありがとう」
「え?」
「炎の演出の時――咄嗟に、防御魔法を展開してくれただろう?」
やはり、あの瞬間の防御魔法が、リリィのものだと気づいていたらしい。
「ロナが、教えてくれたから」
リリィは少し照れくさそうに答える。
「咄嗟に・・・守らなきゃって、思って」
その言葉に、オリビエの表情が、一層柔らかくなった。
気づけば、リリィは自然に、上手にステップを踏めていた。緊張も、先ほどまでのもやもやとした感情も、いつの間にか溶けてなくなっている。
ただ、この穏やかな時間が――ずっと続けばいいのに。
そんなことを、リリィは静かに思うのだった。
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