【第6章-4】不穏な影と演劇とダンスの特訓
「はい、もう一度!右足から!」
「ほよ・・・足がもつれる・・・!」
学院祭を目前に控えた放課後、空き教室では、リリィのダンス特訓が繰り広げられていた。指導役を買って出たのは、ロナとミリアムだった。
「リリィ、力み過ぎよ。もっと自然に」
ミリアムがリリィの肩にそっと触れ、力を抜くよう促す。
「で、でも。踏まないようにって思うと、どうしても・・・!」
「大丈夫、ちゃんと私がリードするから。まずは私の足を見ないで、目線はまっすぐ」
ロナが根気強く手本を見せながら、何度も何度もステップを繰り返す。最初はぎこちなく、二人の足を何度も踏みつけていたリリィだったが、持ち前の高い身体能力と、規格外な魔力操作で培われた繊細な体幹の感覚が、意外な形で功を奏し始めていた。
「あ・・・あれ、今の、出来た・・・?」
「そうよ!その調子!」
数日にわたる猛特訓の末、リリィのダンスは、なんとか人前に出せる形にまで仕上がっていった。
「ほよ・・・魔法の修行より、疲れるかも・・・」
最後の通し稽古を終え、リリィはくたりと椅子に沈み込む。
「なかなか筋が良いと思うわよ」
ロナが満足げに笑う。
「そうね」
ミリアムも同意するように頷いた。
「もう少し苦戦するかと思ってたけど・・・徒労に終わって、良かったわ」
「なんかね」
はにかみながら、リリィがぽつりと言う。
「ちょっと大きな魔物との立ち回りに、似てるかも」
――そのちょっと大きな魔物とは、災害級の大型魔物のことである。
「そ、そっか〜・・・」
ロナとミリアムは、揃って何とも言えない苦笑いを浮かべるのだった。
――
そして迎えた学院祭当日。
学院内には、貴族や商人、その関係者など、様々な人々が訪れ、朝から賑わいを見せていた。
「今日なら学院に簡単に潜入出来る。あんたも手筈通りにやるんだな」
青年がそう言うと足早に立ち去ろうとする。しかし、案内された女性・・・シーナは青年を呼び止める。
「貴方が探している物、既に誰かの手に渡っているわ」
シーナは青年に静かに告げる。青年の顔が青くなる・・・あれが誰かの手に渡れば自分はもう終わりだと悟っていた。
「私は行くわ。貴方も身の振り方を考えた方が良いわ・・・」
そう言い残し、シーナは人混みの中に紛れていく。
――
一方、リリィたちの担当は資材調達や調整役だったため、学院祭当日はこれといった仕事もなかった。強いて言えば、屋台の食料調達くらいのものだった。
「私、あそこの串肉っての食べてみたい!」
はしゃぎながら、リリィは屋台へ向かって駆け出す。
「こらこら、あんまり走ると転ぶわよ」
ロナが注意した、その直後。
「――ほよっ!?」
見事に、リリィは盛大に転んだ。
「言わんこっちゃない・・・」
やれやれとため息をつきながら、ロナがリリィを引き起こす。その様子は、まるで年の離れた姉妹のようだった。
――
やがて、リリィたちはオリビエが主役を務める公演を見物することにした。演目は、王国で長く愛されている定番の物語だという。
王子がヒロインを救うため旅をし竜を打ち倒す、そして最後は見事結ばれる――そんな筋書きの舞台劇だった。
やがて、王子役のオリビエがヒロインを救うべく旅立ち、魔物と対峙する場面に差し掛かる。
「――!」
オリビエの目が、わずかに険しくなった。
(おかしい・・・魔物役は、こんなに居なかったはずだ)
打ち合わせでは魔物役は三人のはずだった。しかし今、舞台上には五人。明らかに数が合わない。
だが、大勢の観客が見守るこの舞台を、いきなり止めるわけにはいかなかった。
(ここは・・・!)
平静を装いながら、オリビエは芝居の流れを自然に保ちつつ立ち回る。氷魔法を巧みに操り、二人の――紛れ込んだ刺客の足元を凍りつかせ、その場に縫い留めた。
(これで、大人しくしてくれれば良いが・・・)
そのまま視線でエリオットに合図を送る。頷いたエリオットは、他の魔物役たちと共に、拘束した二人をさりげなく舞台袖へと引きずっていった。
観客席からは、まるで演出の一部のような自然な流れにしか見えていない。
そうして何事もなかったかのように、芝居は次の場面――王子と竜の一騎討ちへと、静かに進行していった。
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