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【第6章-3】悩めるオリビエの踏み出す一歩

学院祭を一週間後に控えた日。オリビエは、まだ一人悶々とした思考の渦の中にいた。


(リリィは・・・私の舞台を見に来てくれるだろうか)


「そんなに気になるなら、誘えばいいじゃないか」


不意にかけられた声に、オリビエは我に返る。どうやら、無意識のうちに考えが口から漏れ出ていたらしい。


「え、あ、いや・・・」


慌てて取り繕おうとする。


「リリィ達だって、色々と忙しいんじゃないかな。きっと、誘っても来られるかどうか・・・」


珍しく歯切れの悪いオリビエを見て、エリオットの顔に、意地の悪い笑みが浮かんだ。


「なんなら、『舞踏会で一緒に踊りませんか?』って誘ってみりゃいいんじゃね?」


ケタケタと笑うエリオット。


「はぁ!?エリオット!?何を――」


思わず声を張り上げてしまい、オリビエは慌てて咳払いをする。だが、その頬は、隠しきれないほど赤く染まっていた。


「まぁ」


エリオットは、ふと真面目な顔つきに戻る。


「リリィが踊れるかってのは疑問だけどな。あのマリアンヌ様の弟子だし。ついでに聞いてみても良いんじゃないか?」


(――そうか。失念していた)


リリィは貴族の出ではない。舞踏会でのダンスの経験など、あるはずもないのだ。


(それでも――私は)


リリィと共に踊る自分の姿を想像すると、胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じた。


――


その頃、リリィはロナたちと昼食を共にしていた。先日見つけた魔導具――精神支配の術式が刻まれたそれをリリィは見つめていた。


「その魔導具・・・本当に精神支配の魔導具なの・・・?」


ティオが恐る恐る聞く。魔導具に目が無いティオではあるが、その術式を聞いて何時もの目の輝きは鳴りを潜め、この魔導具の恐ろしさに強張っていた。


「うん・・・間違いないよ。課外授業で迷い込んだ毒尾蠍と同じ感じがする・・・」


リリィは珍しく腕を組み唸る。こんな物がどうして学院にあるのか、見当がつかなかった。


「確か、ケビン先生とぶつかった後に見つけたんだっけ?まさかケビン先生って・・・」


ロナがケビンとブラックモア公爵に繋がりがあるのでは?と小さく呟く。


状況的には無くはないのだが、ケビンがブラックモア公爵に従う理由が、リリィたちには分からなかった。


「オリビエ様に相談してみるのも良いかもしれないけど、今はねぇ・・・」


ミリアムが頬に手を当て小さくため息をついて遠くを見つめる。


「そう言えば、最近オリビエ来ないね」


何気なく零したリリィの一言に、ロナたちは同時に固まった。


「――え!?リリィ、オリビエ様が舞台に出る事、知らなかったの!?」


驚愕するロナ、ミリアム、ティオ。


「ほよ?オリビエって、舞台に出るの?」


あっけらかんと聞き返すリリィに、三人は顔を見合わせ――やがて、揃って小さく息を吐いた。


(まぁ・・・リリィだしね)


不思議な説得力に、三人は妙に納得してしまう。


「そうよ、オリビエ様は舞台で主役の王子様役を務めるわ」


昼も休みなく舞台の稽古をしているとミリアムが説明すると、リリィは目を輝かせた。


「オリビエって凄いね。魔法も強くて、舞台で主役までやるなんて」


感心しきりのリリィのもとへ、当の本人がひょっこりと姿を現した。


「リリィ、ちょっと良いかな?」


その表情は、心なしか緊張しているように見えた。ロナたちはすぐさまその空気を察知したが、当のリリィは、まるで気づく様子もない。


「どうしたの?オリビエ」


いつも通りの笑顔で答えるリリィに、オリビエはますます緊張を募らせる。


(何でこんなに緊張してるんだ・・・らしくない・・・)


内心で自分を鼓舞しながら、オリビエは口を開いた。


「学院祭の舞台、私が主役を務めるんだけど・・・もし良かったら、見に来てくれないかな?あっ、時間があれば、だけど」


何とか言い切ったものの、その口調はどこかぎこちなかった。


「ほよ?良いの?楽しみにしてるね」


屈託のない笑顔で即答するリリィ。


「あ、後・・・」


オリビエは、内心の緊張を悟られぬよう、慎重に続けた。


「舞踏会で、私と一緒に踊ってくれると、嬉しいな」


心臓が、かつてないほど早鐘を打っていた。誰かをこんなにも意識するのは、生まれて初めてのことだった。


「ほよ?オリビエ、私と踊りたいの?」


小首を傾げるリリィの姿は、まるで小動物のように愛らしかった。


「ああ。是非、私と踊って欲しいな」


平静を装いながら、それでも懸命に告げる。


「うん、分かった。舞台も舞踏会も、楽しみにしてるね」


満面の笑みで答えるリリィ。その会話の一部始終を聞いていたロナたちは、揃ってにやにやとした表情を浮かべていた。


オリビエが立ち去った後、ふと、ロナが思い出したように口を開いた。


「そう言えばリリィ。貴女って、踊れるの?」


「――!」


その一言に、リリィの体が、ぴしりと固まった。


(あ・・・)


すっかり失念していた、致命的な事実を、今更ながらに思い出す。


「ほよぉぉぉぉ!!!」


学院中に響き渡らんばかりの、過去最大級の「ほよ」が、その場に木霊した。

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