【第6章-2】オリビエの悩みとコルセットの洗礼
「――どうしよう」
オリビエは、一人考え込みながら、頭を抱えていた。
(リリィと、舞踏会で一緒に踊れるだろうか。そもそも、リリィが他の男子生徒と踊ったりするだろうか。・・・いや、待て。私はリリィと、一体どうなりたいんだ)
思考は堂々巡りを続け、気づけば低い唸り声まで漏れていた。
「おい、オーリ」
呆れた声で覗き込んできたのはエリオットだった。
「何唸ってんだ?まさか、主役だからって緊張してるのか?」
柄にもない、と言いたげな表情。オリビエは咄嗟にいつもの笑顔を取り繕った。
「えっ、いや。少し、考え事をしていたんだ」
「ふうん?」
疑わしげな目を向けながらも、エリオットはそれ以上追及することなく、踵を返す。
「まったく、しっかりしろよ。舞台終盤の打ち合わせに行くぞ」
そのまま教室を出て行くエリオットの背を見送りながら、オリビエは小さく頭を振った。
(そうだ、今は舞台に集中しよう。公爵の子息が主演で失敗なんて、それこそ格好がつかない)
ぱんと自分の頬を軽く叩き、気合を入れ直すと、オリビエもまた教室を後にした。
――
一方その頃、リリィはロナと共に、舞踏会用のドレス選びに勤しんでいた。
「リリィが似合いそうな色って、やっぱり淡い水色系じゃないかしら」
そう言いながら、ロナは選んだドレスの一着を手に取り、リリィの体にそっと合わせてみる。
「うん、色は合ってるわね。後は、サイズが合うかだわ」
「ほよ・・・入るかな?」
ドレスを着ること自体が初めてのリリィにとっては、そもそも自分の体型にサイズが合うかどうかも、まるで見当がつかなかった。
「大丈夫よ、着付けもメイドに頼んでるから。それに、サイズは調整すれば着れるようになるわよ」
にっこりと微笑むロナに、リリィも笑顔で頷く。
「ありがとう、ロナ。これ、試着してみるね」
そう言うと、リリィはメイドと共に着替えの為、部屋を後にした。
一人残されたロナは、その背中を見送りながら、小さく苦笑いを浮かべた。
(あのドレス・・・確か、私が十二歳の頃に着ていたものなのよね・・・)
さすがにそれをリリィに伝える気にはなれなかった。だが――正直なところ、あのサイズは、今のリリィにぴったり合ってしまうであろうことも、ロナにはよく分かっていた。
――
そして。
リリィは、生まれて初めて、コルセットという名の地獄を経験することになった。
「ふ、ふぬぅ・・・」
「もう少しですよ、お嬢様。あと少しだけ、我慢してくださいね」
メイドの手によって、きゅっ、きゅっと紐が締め上げられていく。
「ほ、ほよぉ・・・!し、しめられ・・・!」
「これくらいは普通ですよ、お嬢様。皆さん、こうして着付けているんです」
「そ、そうなんですか・・・ぐぇ・・・」
苦しそうな声を上げながらも、リリィはなんとか着付けを耐え抜いた。
(ほよ〜・・・こんなに大変なんだ〜・・・)
マリアンヌの過酷な修行の日々、災害級の魔物を倒せと無茶ぶり言われて泣きながら倒した時、いきなり知らない山に飛ばされて自力で戻ってこいと言われた時、そんな日々を乗り越えたリリィですら・・・
(コルセット・・・これが、一番キツいかも・・・)
息も絶え絶えになりながら、リリィは心の底からそう思うのだった。
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