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【幕間4】予言の魔女の弟子達

夜の帳が降りたブラックモア公爵邸に青年は女性を連れて現れた。女性は両手を拘束され俯き何処か諦めた様な表情をしていた。


青年が女性をブラックモア公爵の執務室へ連れて行くと、公爵はニヤリと不気味に笑う。


「おぉ、シーナか」


公爵はシーナを下から舐めまわす様に見上げていく。シーナにはそれが不快だった。


「貴様にはこれから儂の為に働いて貰う、従わなければ――分かっているな?」


公爵は冷たく言い放つ、シーナは従わなければ自分は殺されると分かっていた。師であるベアトリクスが亡くなったと聞かされた時に公爵の魔の手から逃げ続けていたが、青年に捕まってしまった。


「――はい」


「ふん、では早速貴様に命令する」


そう言うと公爵は懐からドス黒い液体の入った小瓶を取り出し机に置く。


「それで”予言の少女”を殺せ、もしくは脅して我が元へ連れてこい」


シーナは息を飲んだ、この液体は毒薬だ。それに、公爵は今でもベアトリクスが占星術で視た”予言の少女が公爵を殺す”と言う予言を信じていた。


「それと、貴様の師が儂から奪い隠した物を探せ」


ベアトリクスが公爵から奪った物、シーナには何の事か分からなかった。師が一体何を奪い隠したのだろう。


「――はい」


抵抗も無意味と判断し、小さく返事をするシーナに青年は部屋に案内する。


「ここ、使って良いって」


青年が静かに言うと、シーナはかつてベアトリクスが使用していた私室だと分かった。あの頃から変わらない家具の配置や装飾品は、まるで時間が止まっていたかの様に錯覚する。


「貴方、お名前は?」


シーナの唐突な質問に青年は驚くが、直ぐに平静を装う。


「俺は――」


その名前を聞いたシーナは目を閉じ静かに詠唱する。すると青年の周りに小さな光が無数に広がる。それは占星術による占い、星を詠み特定の人物の吉凶を占う技。ベアトリクス程では無いが、シーナの得意としている所だった。


「――さん、貴方は大切な物を失う」


「――!」


青年は驚くが、失ってたまるかと言い部屋を後にする。部屋に残ったシーナは小さくため息をつき机の先を見つめる。


「ヘクター」


誰もいない筈のその場所にシーナは話しかける。


「貴方、生きていたのね」


そう言うと、ヘクターが姿を現す。幻影魔法により姿を消していたのだ。


「・・・久しぶりです、姉さん」


ヘクターがバツの悪そうに言う。ヘクターにとってシーナは姉弟子でありベアトリクスの死後、ヘクターが公爵の魔の手が及ばない様に逃がした相手でもある。


それがこんな形で再会するなんて。


「姉さんまで捕まるなんて・・・」


「いいえヘクター、私はこれでも貴方と同じ予言の魔女の弟子――その必要があったからここへ来たのよ」


静かに、落ち着いた声で言うシーナはヘクターに微笑む。まるで心配する子供を落ち着かせる様に。


「必要――?」


意味を分かりかねているヘクターにシーナは耳元で囁く。


「公爵を倒す手札がこの部屋の何処かに隠されてるわ」


その言葉に衝撃を受けたヘクターは大きく目を見開く。流石は弟子の中で占星術に長けた姉弟子だ、手を組んだマリアンヌも同じことを言っていた。


『公爵邸の何処かに”裏切れない契約”が書かれた契約書があるはずよ、あれさえあれば公爵を倒す一手になるわ』


マリアンヌは酒瓶を片手にそんな事を言っていた、そしてヘクターに公爵邸に潜入して契約書を見つけ回収しろと命令したのだ。


「俺の協力者も同じ事を言っていた、あの終焉の魔女だ。禁術で結んだ契約書があれば公爵に一矢報る事が出来る――師匠が亡くなる前に何処かに隠したって」


ヘクターもマリアンヌと協力関係を結んでいる事を隠さず言う。シーナを信頼していたのだ。


シーナは口元に手を当て考え込む。かつてベアトリクスがこの部屋の何処かに施していた結界魔法を――


「ヘクター、師匠はこの箪笥に結界魔法を施していたわ――そこにあるのかも知れない」


シーナが指を差したのは豪華な装飾の衣装箪笥だった。


「ここに――あるのか・・・?」


ヘクターが固唾を飲み衣装箪笥を開けると、そこは何の変哲もない豪華な衣装がただ存在するだけだった。


「・・・何も、ない?」


そう言いヘクターは衣装箪笥の奥を見つめる。視認は出来ないが、僅かに魔力を感じた。


「奥に何か結界魔法らしいモノがある」


シーナも確認し見つめる。これだ、かつてベアトリクスがこの衣装箪笥に施していた結界。


そのままそっと手を触れると、バチリと拒絶される様に弾かれてしまう。そうとう強力な結界を施しているのだと、シーナは悟った。


「これは、結界を解除するのに時間が掛かりそうね」


どんな術式なのか全く見当が付かなかったシーナはため息をつきヘクターに言う。


「そうか――あまり時間を掛けたくは無いが、仕方ない」


肩を落とすヘクターにシーナはそっと肩を叩く。落ち込んでいるヘクターを励ましている様だった。


「そうね、今日は帰りなさい。あまり長居して貴方が見つかったら大変な事になるわ」


優しく言うシーナにヘクターは申し訳なさそうな表情をするが、確かにここで公爵の手の者に見つかる訳にはいかない。


「分かった、姉さんも気を付けて」


そしてヘクターはまた来ると良い残し幻影魔法で姿を消す。


(私も、あの結界の術式を解読しないと)


シーナは天井を見つめる。かつてここでベアトリクスから学んだ過去、姉弟子であるエレナが公爵の妾に出され死んだ事、そしてベアトリクスの死、何処で歯車が狂ってしまったのだろう。いや、もしかしたら最初から狂っていたのかもしれない。


(でもその前に、公爵の命令に従わないと・・・)


懐から出したそれを見つめ、シーナはため息をつく。予言の少女を殺す、もしくは公爵の元へ連れて行くため――静かにシーナは部屋を出た。

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