【第5章-6】願いを貫く
気付けば震えは止まっていた。
リリィの右手から解き放たれたそれは、地獄の業火と呼ぶに相応しい圧倒的な熱量を誇っていた。リリィは怯む事無くロナが巻き添えにならない様に防御魔法を展開する。
「げっ・・・聞いてないっスよ、こんなの・・・!」
情報ではリリィは炎魔法が使えなかった筈、それを友達を助ける為に行使出来る様になるとは思ってもみなかったトヴァルは驚愕の声を上げる。彼の展開していた結界は巨大な火柱に飲み込まれ、爆音と共に一瞬で粉々に打ち砕かれた。
「――ロナ!!」
炎が収まると同時に、リリィは叫びながらロナのもとへと駆け寄る。
「リ・・・リィ・・・」
辛うじて意識を取り戻したロナが、弱々しくその名を呼んだ。
「ごめんなさい・・・私・・・皆を・・・巻き込みたくなくて・・・」
ぼろぼろと涙を零しながら、リリィは震える声で謝罪した。
「分かってる、わよ・・・」
ロナは、力のない笑みを浮かべる。
「私も・・・意固地になって・・・ごめんなさい」
「本当は・・・皆と一緒に居たい・・・」
堪えきれない想いが、リリィの口から溢れ出す。
「皆と授業受けて・・・一緒にご飯食べて・・・笑いあって・・・」
もっと、もっと――大好きな友達と、たくさんの思い出を作りたい。それだけを、ずっと願っていた。
「ふふ・・・そうね・・・」
ロナは微笑みながら、そっとリリィの頭を優しく撫でる。
「――だから」
涙を拭い、リリィはゆっくりと立ち上がった。
「私・・・ロナを傷つける貴方を、許さない」
まっすぐにトヴァルを見据える瞳には、もう迷いはなかった。
「公爵様に盾突いたらどうなるか、分かってるんスか?」
「私はブラックモア公爵側には付きません、私はただこの学院で皆と楽しく過ごしたい――そして、ベアトリクスさんの汚名を晴らしたい!!」
「そんな事が出来ると思ってるんスか!?」
小馬鹿にするトヴァルは炎魔法を放つが、リリィは動じることなく、その場で防御魔法を展開し、易々とそれを防いだ。
「くっ・・・!あんたのお友達もただじゃ済まなくなるっスよ!」
トヴァルは焦りつつ続けざまに炎魔法を放つ。リリィはそれを防御魔法で受け止めながら、大きく息を吸い込んだ。
「私は――私の手で、皆を守るもん!!」
叫びと共に、リリィは両手をトヴァルに向ける。水魔法の最上級魔法「アイシクルエイジ」を無詠唱で放つ。轟々と渦巻く氷雪の奔流が、トヴァルの放った炎魔法を瞬く間に飲み込んでいく。
「な、なんだこれ――!?」
抵抗しようとするトヴァルだったが、次の瞬間には全身をびっしりと氷に覆われ、そのまま完全に動きを封じられてしまった。
――
木陰から事態を見守っていたオリビエとエリオットはその圧倒的な力にただ立ち尽くすだけだった。本当は助けに出るつもりだったのだが、リリィが炎魔法を放った事で自分達の出番は無いと悟ったからだ。
「リリィ・・・」
本当は怖かっただろう、過去のトラウマに縛られ震えながらも友達を助ける為に炎魔法を放つリリィを見たオリビエの心は震えていた。
壮絶な過去を持ちながらもひた向きに特訓をし、遂に克服出来た事に他人ながら喜びたくなる。
「あいつ、炎魔法を克服出来たな・・・」
エリオットが感慨深く呟く。彼なりに気にかけてはいただろう、口角が上がっていた。
「あぁ、よくやったね・・・リリィ・・・」
聞こえないだろう声で言うオリビエはそのまま木陰から歩き出しリリィの元へ向かう。
「あ、オリビエ」
「エリオットの使い魔がサゴット嬢が囚われてるって教えてくれてね、駆け付けたんだけど」
そう言いオリビエは氷漬けになったトヴァルの方に視線を送る。
「大丈夫そうだね」
微笑んだオリビエはリリィの頭を撫でる。
「炎魔法、発動出来たね」
「見てたの!?」
驚きの声を上げるリリィにオリビエは何時もの爽やかな笑顔でリリィを見つめる。
「あぁ、丁度来た時にリリィが炎魔法を発動する所だったよ、私達の出る幕は無かったね」
あの言葉を聞かれたと思いリリィは気恥ずかしくなり両手で顔を覆う。
「はは、恥ずかしくないよ。寧ろ友達を助ける為に君は頑張った、誇って良いと思うよ」
オリビエのその一言にリリィは何故か心臓が高鳴っている気がした。炎魔法を克服出来て気分が高揚しているのか、リリィは分かりかねてた。
轟音を聞きつけケビンが駆けつける。ぐったりとしたロナはすぐさまケビンの手によって保護された。
「一体、何があった!?」
続いてやって来たガルシアとリーシャ、そしてジョシュアがリリィに事の次第を問いリリィが説明していくのだった。
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