【第5章-4】狡猾な魔法
目を覚ましたロナは、体を起こそうとして――動かないことに気づいた。
「え・・・?何、これ・・・?」
手足が、見えない力によってしっかりと拘束されている。慌てて周囲を見渡すと、辺りはすっかり夜の帳が下りた学院の校庭。そして、自分の周りにはうっすらと光る結界魔法が展開されていた。
「お、目覚めたっスか。思ったより速かったっスね」
明るい声が、闇の中から響く。
「あ、貴方・・・さっきの・・・」
廊下の角でぶつかった、あの男だった。
「いや〜、隠れて君を探してたのに、君から来てくれるから――俺って運が良いっスよね〜」
ルンルンとした口調で語るトヴァルに、ロナは状況が飲み込めず眉根を寄せた。
「貴方、何を言っているの・・・?」
「何って」
トヴァルの声色が、すっと低く、冷たいものに変わる。
「君を使って、リリィ・クローデルをおびき出す為に――こうして、攫ったってわけっスよ」
「――!」
背筋が凍るような感覚に、ロナは息を呑んだ。だが、すぐに首を横に振る。
「あの子は・・・来ないわよ」
昼間、自身が放ってしまった言葉が脳裏をよぎる。一緒に居ないで――そう言われて、自分もまた突き放すように言い返してしまった。
「え? 俺の調査だと、あんたら友達なんじゃないんスか?」
トヴァルが首を傾げる。
「だから、おびき出す餌にすれば来ると思ったんスけどねぇ」
「あんな子、知らないわ」
強がるように吐き捨てながらも、ロナの声は徐々に震えを帯びていった。
「自分で全部背負っちゃって・・・少しくらい、背負わせてよ・・・友達、なんだから・・・」
――本当は、分かっていた。リリィの態度が急に変わったのは、きっと自分たちを巻き込みたくないという、不器用な優しさだったのだと。
それなのに、意地を張って、あんな冷たい言葉を返してしまった。
込み上げる後悔に、ロナは唇を噛み締める。本当は謝りたい、でもリリィはどうなんだろう?と俯く
「何か分からないっスけど」
トヴァルは軽い調子で肩をすくめると、パチンと指を鳴らした。
「とりあえず、始めるっスよ」
その瞬間、ロナを囲む結界魔法が、不気味な光を放ち始めた。
「――!?」
何かが変わった――そう感じた次の瞬間、ロナはすぐにその異変の正体を悟った。
「な、何これ・・・魔力が・・・吸われてる・・・?」
体の内側から、じわじわと何かが引きずり出されていく感覚。抵抗しようにも、拘束された手足はぴくりとも動かない。
「そう」
トヴァルが、にっこりと笑う。
「ただ拘束するだけじゃなくて――リリィ・クローデルに交渉する為の、仕込みってわけっスよ」
その笑顔は、あまりにも軽薄で、それゆえに恐ろしかった。
「こ、交渉・・・?」
ロナは何を言っているのか分からなかった、この男がリリィに何の交渉をするつもりなのだろう、リリィに危害が及ぶのだけは許せなかった。
「――ロナ!!」
その時、悲鳴のような叫び声が、夜の校庭に響き渡った。
「お」
トヴァルの目が、すっと細まる。
「タイミング、バッチリっスね」
視線の先には――全力で駆けてくる、リリィの姿があった。
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