【第5章-3】言ってはいけない言葉
授業後、ロナ達と一緒に過ごす事無くリリィは廊下で1人歩いていた。本当は一緒に居たいのに、自身が襲われてロナ達が巻き込まれたら――いや、ロナ達が狙われたら?そんな不安がリリィを襲い涙が出そうになる。
「リリィ、一緒に寮に帰りましょう」
リリィを見つけたロナは、いつもと変わらぬ調子で駆け寄より方にそっと手を添える。しかし、リリィはその手を払いのけた。思ってもみないリリィの反応に思わず「えっ・・・?」と小さく声を上げる。
「ごめん、今日は一人で帰るね」
そのまま立ち去ろうとするリリィの手を、ロナは咄嗟に掴んで引き止めた。
「だってリリィ、貴女なんだか元気無いじゃない。何かあったの?」
心配そうに問いかけるロナに、リリィは俯いたまま、小さな声で答える。
「ううん・・・何でもないの。大丈夫だよ」
「何でもない事、ないでしょ? 私たち”友達”じゃない」
ロナの声が、次第に強くなっていく。そう、リリィのにとってロナ達は大切な”友達”なのだ。それ故に近くに居るとその大切な”友達”が傷ついてしまうかもしれない。やがてリリィは小さく呟く。
「・・・ないで・・・」
聞き取れないほど小さな呟きに、ロナが「え?」と聞き返した、その瞬間だった。
「もう・・・一緒にいないで!!」
叫ぶように放たれたその言葉に、リリィ自身が一番驚いていた。本当は、そんなこと思っていない。ずっと一緒にいたい。ずっと友達でいたい。それなのに、言ってはいけない言葉が、口を突いて出てしまった。
「あ・・・違っ・・・」
訂正しようとするも既に遅く、ロナの表情が、みるみる変わっていく。
「――なによ・・・んたなんて、もう知らない!」
売り言葉に買い言葉。そう言い放つと、ロナは怒りを露わにしたまま踵を返し、足早にその場を去っていった。
「――ロナ・・・」
引き止める言葉すら出てこなかった。1人残されたリリィは、ただその場に立ち尽くしたまま、静かに涙を流し続けていた。
怒りを引きずったまま、ロナは足早に廊下を歩いていた。リリィの言葉は本心じゃない。それはロナも分かっているが、辛い状況でも頼ってくれない事と一緒にいないでと言う一言で頭に血が上ってしまったのだ。
「何よ、あの子・・・」
苛立ち混じりに悪態をつきながら、角を曲がった瞬間――誰かと勢いよくぶつかってしまう。
「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていて、気づきませんでした」
反射的に謝罪するロナに、相手はへらへらとした笑みを浮かべながら答えた。
「いや、大丈夫っスよ。俺の方こそ考え事してたっスから」
――トヴァルだった。表向きは軽薄な笑みを崩さないまま、内心では歓喜していた。
(こいつ、ターゲットじゃないっスか・・・幸先良いっスね)
「良かった、じゃあ私行きますね」
そう言って立ち去ろうとするロナの背に、トヴァルの手が伸びる。次の瞬間、拘束魔法と睡眠魔法が同時に発動した。
「――え・・・?」
抵抗する間もなく、ロナの意識はふつりと闇に沈んでいった。
「すぐ見つかるなんて、幸先良いっスね」
ぐったりと崩れ落ちるロナの体を抱え、トヴァルは不敵な笑みを浮かべる。
「さあて。あんたの友達には、悪いんスけど――」
その呟きは、誰の耳に届くこともなく、静かな廊下に消えていった。
――
その頃。寮の食堂で、リリィは一人、うつむいたまま座り込んでいた。
(ロナを傷つけちゃった・・・私、なんであんな事言っちゃったんだろう・・・)
思い出すたびに、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。堪えていたはずの涙が、また滲みそうになった。
「どうしたんだい、リリィ?今日はロナ達と一緒じゃないのかい?」
心配そうに、ゼシカが隣の席に腰を下ろす。
「えっと・・・何でもない・・・です・・・」
明らかに元気のない返事に、ゼシカは小さくため息をつくと、温かいホットミルクを一杯用意し、リリィの前にそっと置いた。
「ロナ達と、喧嘩でもしたのかい?」
その優しい問いかけに、リリィの目からとうとう涙がこぼれ落ちた。
「喧嘩と言うか・・・私が、言っちゃいけない事言って・・・それで・・・ロナが、怒っちゃって・・・」
思い出すだけで、声が震える。
「そうかい」
ゼシカは静かに頷き、リリィの頭をそっと撫でた。
「ただ、時間が解決してくれる訳じゃないからね。ちゃんと、謝るんだよ?」
その言葉に、リリィは俯いたまま答えられずにいた。
(謝りたい・・・仲直りしたい・・・)
でも――と、もう一人の自分が囁く。仲直りすれば、また一緒にいられる。だけど、一緒にいれば、公爵の刺客に狙われてしまうかもしれない。
謝りたい気持ちと、離れなければという焦りが、リリィの中でぐるぐると渦を巻いていた。
「ゼシカさん、ロナ戻ってませんか?まだ帰って来てないみたいで」
不意に、食堂に入ってきた生徒の一言が、リリィの耳に飛び込んできた。
「え・・・」
心臓が、どくりと大きく跳ねた。
(まだ、帰ってきてない・・・?)
いつものロナなら、こんな時間まで寮に戻らないなんてありえない。悪い予感が、瞬く間にリリィの胸を満たしていく。
(まさか・・・刺客に・・・?)
考えるよりも先に、体が動いていた。
椅子を蹴るように立ち上がり、リリィはゼシカが呼び止める声も聞かず、寮の外へと飛び出していった。
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