【幕間3】願ったものは
風化しつつある瓦礫と、崩れかけたまま朽ちていく建物の残骸。かつて街だったその場所に、リリィはマリアンヌと共に立っていた。
マリアンヌに連れられ、初めて訪れる、ファラスの跡地。
「これ・・・本当に私がやったんだね・・・」
俯いたままリリィはぽつりと呟いた。
「えぇ」
マリアンヌは静かに、しかし優しく答える。
「でも、こうなったのは、貴女が自分を守ろうとした結果よ。貴女が悪いわけじゃないわ」
「ここに、お父さんとお母さん・・・友達も、街の人達も、眠ってるんだね・・・」
複雑な感情が、リリィの胸の中で渦を巻いていた。ベアトリクスが炎で街を焼き払ったのが始まりだったとはいえ、この光景をここまで凄惨なものにしてしまったのは、自分自身の魔力の暴走だ。逃げ惑っていた人々もまた、その奔流に飲まれ、消えてしまった。
その事実に、リリィの胸がぎゅっと締め付けられる。
「悪いのは、公爵よ」
マリアンヌが、静かに言葉を続けた。
「そして――不用意に、ベアトリクスを追い詰めてしまった、私」
自分自身を責めるように紡がれたその言葉に、リリィは顔を上げ、まっすぐにマリアンヌを見つめた。
「師匠は、悪くないよ」
「・・・リリィ?」
「私、あの話を聞いて思ったの」
リリィの瞳には、確かな決意が宿っていた。
「ベアトリクスさんは、公爵の被害者だと思う。ヘクター先生も、きっとそう。だから――私は、ベアトリクスさんの汚名を晴らしたい」
まっすぐな眼差しで告げられたその言葉に、マリアンヌは一瞬、目を見開いた。
「そうね」
やがて、小さく頷く。
「私も、ベアトリクスの汚名を晴らせるなら、そうしてあげたいわ。でも・・・まだ”契約書”が見つかっていないの。あれさえ手に入れば、汚名を晴らす一手になるのだけど」
「契約書・・・?」
「そう、ベアトリクスがファラスに向かう直前に公爵と交わした”契約書”を持ち出して何処かへ隠した・・・彼女がそう言っていたわ」
『”予言の少女”を殺したら、私は公爵を討つ・・・予言を現実にする為に・・・』
ベアトリクスはブラックモア公爵を倒す為の切り札として”契約書”を探し出し隠したのだ。
「それに関しては、私も調べているわ」
マリアンヌはそっとリリィの頭に手を乗せる。
「だから貴女は、このまま学院生活を送りなさい」
「ほよ、師匠も調べてくれてるなら安心だね」
リリィがはにかむと、マリアンヌはにっこりと笑った。
「ええ。私の可愛い弟子の為だもの。何だってするわ」
そう言った後、マリアンヌはふと悪戯っぽく付け加える。
「ただ――公爵の刺客は、貴女自身が何とかしなさい。私からの宿題みたいなものよ」
「うん、頑張る!」
「それにしても」
マリアンヌは、しみじみとした様子でリリィを見つめた。
「ベアトリクスの汚名を晴らしたいだなんて・・・リリィも、大きくなったわね」
その言葉に、リリィはきょとんと首を傾げる。
「ほよ?背は伸びてないよ?」
「・・・そういう意味じゃないのだけど」
苦笑しながら、マリアンヌは小さく肩をすくめた。
――
やがて、2人は静かにファラスの跡地を後にした。
マリアンヌが”契約書”を見つけ出すその日まで――リリィは今まで通り、学院生活を謳歌しながら過ごすことを心に決めていた。
そして、いつか来るその時には。
公爵と、真っ向から戦う。
穏やかな決意を胸に、リリィは師の背中を追って、静かに歩き出した。
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