↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/79

【第4章-7】穏やかな日

事件後、学院は後処理のため数日の休校となった。すっかり快方したリリィは、ロナ達に誘われ、街へ繰り出すことになった。反逆の魔女事件の真相を知り落ち込んでいるリリィを気遣っての事だ。


「ほよ~。これ、魔導具?凄いね~」


初めて訪れるレイヴラスの街並みに、リリィは早速ショウウィンドウに顔をくっつけるようにして見入っていた。


「これはかの有名な魔導具師、エクレール・アヴァン氏の作品で――遠くにいる人と通信できるという、画期的な魔導具でして――」


ティオが目を輝かせながら早口で解説を始めるが、リリィの耳にはまるで届いていない様子だった。ただ純粋に、光る魔導具に釘付けになっている。


「ほらほら、2人とも、行くわよ」


呆れたようにロナが2人を呼び戻す。


――


向かった先は、レイヴラス随一と評判の雑貨屋だった。文具からアクセサリー、小物や小型の魔導具まで、ありとあらゆる品が所狭しと並んでいる。


「ほよ~。大きいお店だね~」


店に足を踏み入れた瞬間、リリィはその規模に目を丸くした。


「レイヴラス一の雑貨屋だからね。ここなら大体の物は揃うわ」


ロナの説明に、リリィは「ほよ~」と感心しながら、興味の赴くまま店内を見て回る。


やがて、棚の高い位置にある小さな魔導具に目を留めたリリィは、精一杯背伸びをして手を伸ばした。だが、あと少しのところで指先が届かない。


「これかい?」


不意にかけられた声と共に、目当ての魔導具がすっと目の前に差し出された。オリビエだった。


「あ、ありがとう、オリビエ」


はにかみながらお礼を言うリリィに、オリビエは優しく微笑む。周囲の女性はオリビエに見惚れていた。


「気にしないで」


オリビエは周囲の目を気にせずリリィの頭を撫でる。こんな小さな少女があの様な過去があったなんて、想像もつかなかった。


「リリィ、君に謝らないといけない」


リリィは首を傾げオリビエの言葉に耳を傾ける。


「入学して直ぐ、私とエリオットは君が私を狙った刺客じゃないかって疑ってたんだ」


以前、エリオットも同じ様な事を言っていたなとリリィは思うが、その事をリリィは特に気にしていなかった。


「私は公爵家の人間だから、君の様な力を持った娘が入学して警戒をしていたんだ、それで君の過去を秘密裏に探っていた」


その言葉にリリィは「え?」と驚きオリビエを見つめる。


「でも、君の過去はマリアンヌ様が周到に隠していたみたいで、全然分からなかったよ」


申し訳ない気持ちでオリビエはリリィを見つめる。今までブラックモア公爵に見つからない様にマリアンヌは徹底的にリリィの事がブラックモア公爵にバレないように様にしていたのだ。


「だから私とエリオットは君に近づく事にした。でも、君は私達を友達として快く迎えてくれた」


リリィの明るく誰にでも優しい姿は演技ではなく、彼女の本来の姿だった。


オリビエはリリィの方を向き深々と頭を下げる。


「今までの非礼を許して欲しい、リリィ」

「ほよ・・・オリビエ、こんなとこで・・・」


周囲の視線が痛い、リリィはたまらず「分かったから、頭を上げて」と言う。元々、リリィは謝罪をして欲しいと思っていなかったのだ。


「最初はそうだったかも知れないけど、今はちゃんと友達と思ってくれてる?」


首を傾げるリリィにオリビエは思わず心臓が高鳴るのを感じた。


「あぁ、勿論だ」


頭を上げたオリビエは優しく微笑む。


「おいオリビエ、そろそろ行くぞってリリィ・・・」

「あ、エリオットも来てたんだね」

「あぁ、文具が切れたから買い出しだ」

「そっか~、ここ大きいから揃いそうだね」


エリオットが自然にリリィに話している。リリィにとっては友達なのだろうが、オリビエはその光景を見て少しモヤモヤしていた。


――


オリビエ達と別れたリリィは雑貨屋での買い物を終え、4人は近くのカフェへと足を運んだ。


「ここのハーブティー、リラックス効果のある葉を使ってて美味しいのよ」

「そうそう、ハーブティーもケーキも絶品なのよね」


ロナとミリアムが口々に絶賛する中、注文を済ませた一行の話題は、自然と先ほどオリビエのことに移っていった。


「そう言えばリリィ、貴女さっきの雑貨屋でオリビエ様とイイ感じじゃなかった?」


ロナが茶化す様に言うと、意外にもミリアムが話しに食いついてきた。


「まあ、リリィ!詳しく聞かせて頂戴」

「ほよ?そんな大した話はしてないよ?」

「でもオリビエ様、リリィに頭を下げてたじゃない?」

「あら!一体どういう事なのかしら!」

「ミリアム、興奮してるけど大丈夫?」


ミリアムの食いつきにロナとティオが抑えつつ、リリィは先ほどオリビエとの会話を軽く伝える。最初は目を輝かせていたミリアムだが、内容がロマンティックじゃなかったのか普段の表情に戻って行く。


「そう、まさかリリィに接触した理由がそう言う事だったなんて・・・」


すっかり元のミリアムに戻り紅茶を一口飲む。


「私は気にしてないからって言ったんだけどオリビエが頭を下げるからビックリしちゃったよ~」


あっけらかんと言うがオリビエは公爵子息、そんな人間が頭を下げるのはよっぽどの事だ。きっと周囲は騒然としていただろう。


――


すっかり日も傾き、寮へと帰る道すがら。


「盗人だ!捕まえてくれ!」


突然の大声に、4人は同時に振り返った。声のした方から、誰かの鞄を引ったくったらしい男が、こちらに向かって全速力で走ってくる。


「邪魔だ、どけ!」


叫びながら迫る男の前に、リリィが躊躇なく立ちはだかった。


「リリィ、危ないわよ!」


ロナが慌てて制止しようとするが、リリィは意にも介さず、まっすぐに男を見据える。


「悪い人は、私が許さないもん!」


手をかざし、風魔法を放つ。


轟と唸りを上げた暴風が、男を軽々と吹き飛ばし、そのまま気絶させてしまった。地面に転がった鞄は、しっかりと無事だった。


「おおっ・・・!」

「こんな小さないのに、凄い・・・!」


周囲から次々と歓声が上がる。


「うぅ・・・私・・・十六歳なのにぃ・・・」


年相応に見られなかった悔しさに、リリィはがっくりと肩を落とす。


「ま、まあまあ。それだけ強いって証拠じゃない」

「そ、そうですよ。誇っていい事だと思います」


慰めるロナとティオの傍らで、ミリアムも小さく笑いながら、リリィの背中をぽんぽんと叩いていた。


――


そんな賑やかな一幕を、物陰から静かに見つめる1人の男の姿があった。


「・・・これは、”公爵殿”に報告っスね」


低く呟くと、男は誰にも気づかれることなく、静かに闇の中へと姿を消していった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!面白いと思っていただけたら、ぜひ『ブックマーク』や『評価(☆☆☆☆☆)』をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。