【第4章-6】マリアンヌ・クローデルの後悔
「私は彼女を説得する為、リリィが暮らすファラスの街に向かったわ」
マリアンヌは、静かに続きを語り始めた。
「着いた時には・・・街はもう、炎に包まれていた。建物は崩れ、悲鳴が響いていたわ」
燃え盛る街並みを目にした瞬間の光景が、今でも脳裏に焼き付いている。
「彼女が、リリィを炙り出す為にやったのね」
淡々と紡がれる言葉の一つ一つに、当時の凄惨さが滲む。
「私は彼女を見つけて、説得したわ。だけど――」
マリアンヌは一度、言葉を切った。
「『少女を殺さないと、自分が殺される。公爵が憎いけれど・・・亡くなった弟子の分まで、生きなきゃいけないの』。そう言って、聞き入れてはくれなかった」
きっと彼女は、弟子を妾に差し出したことを、誰よりも悔いていたのだろう。だからこそ、死んだ弟子の分まで生き延びることに、縋るしかなかったのだ。
「そして――炎に包まれた街の中で、リリィが泣きながら、両親を呼んでいた」
その言葉に、リリィの喉から、小さな嗚咽が漏れた。
「リリィの両親は、貴女を守る為に・・・瓦礫の下敷きになって、事切れていたわ」
ぽろぽろと、リリィの目から涙がこぼれ落ちる。
「貴方が炎魔法にトラウマを抱えているのは――私のせいね」
マリアンヌはそっとリリィの頭を撫でながら、静かに、しかし深く頭を垂れた。
「ごめんなさいね、リリィ」
「・・・っ」
言葉を発せず、ただ涙を流すリリィに構わず、マリアンヌは話を続ける。
「そして、リリィを見つけた彼女は――殺そうと向かっていった。それを見た瞬間、リリィの魔力が暴走して・・・予言の魔女は、消滅したわ」
一同が息を呑む。
「私は咄嗟に、自分とリリィに防御魔法を展開したけれど・・・残ったのは、まるで戦争でもあったかのような、凄惨な光景。そして、私とリリィだけだった」
目を覚ました時、腕の中で眠っていた小さな体の重みを、今でもはっきりと覚えている。
「リリィは魔力を使い果たして、眠ってしまっていたわ。私はリリィを抱き上げて――貴方を守る為、そして私の発言が引き起こしてしまった惨劇への贖罪の為に、引き取ることにしたの」
一拍置いて、マリアンヌは締めくくるように言った。
「公爵も、リリィが死んだと思い込んでいたわ。だけど・・・リリィがこの学院に入学したことで、公爵はヘクターを潜入させ、リリィを殺そうとした」
語り終えたその瞬間、ロナ、ミリアム、ティオ、そしてオリビエの四人は、言葉を失っていた。
あまりに重く、あまりに残酷な真実。誰も、すぐには声を発することができなかった。
そんな中、マリアンヌはリリィに向き直る。
「ごめんなさいね。貴女には・・・辛い思いをさせてしまった」
その声は、微かに震えていた。
「本当は・・・こうなるかもしれないと思って、学院に入学させるのは、躊躇ったの。でも・・・それじゃ、ダメだって思って・・・」
涙を浮かべながら、マリアンヌは深く頭を下げた。この10年、誰にも見せることのなかった、彼女の本当の弱さが、今、静かに露わになっていた。
「――師匠」
リリィが、静かに口を開いた。
「私は、今、幸せだよ」
涙を流しながらも、その顔には、確かな笑顔が浮かんでいた。
「大好きな友達にも会えたし・・・師匠のことも、ちょっとだらしないけど・・・私にとっては、尊敬する、大好きな師匠だよ」
その言葉に、マリアンヌは大きく目を見開いた。
10年間、ずっと胸の奥に沈めていた罪悪感。晴れることなどないと思っていたそれが、今、少しだけ――救われたような気がした。
「・・・リリィ」
小さくその名を呼ぶと、マリアンヌはそっと、リリィを抱き寄せた。
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