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【第4章-5】彼女の口から語られるあの日の真実

マリアンヌは静かに語り始める、あの日の後悔と贖罪を込めて。


「今から13年程前、当時の四賢者の一人、『予言の魔女』ベアトリクス・アルジェントは、複数の弟子を持っていたわ」


その声にはどこか、重く沈んだものが滲んでいた。


「その中の一人を、ブラックモア公爵の妾として差し出したの」


「――ブラックモア公爵ですって!?」


思わず声を上げたのはミリアムだった。


「四大公爵家の一つ、保守派の筆頭・・・」


その名を聞いてオリビエも眉を寄せ小さく呟く。他ならぬ自分の家、アークレイン公爵家の政敵の名をこんな形で聞く事になるとは思ってもみなかった。


「ベアトリクスはね、ブラックモア公爵の裏工作があったからこそ四賢者に選出された、その恩義ゆえに、逆らえなかった」


四賢者は政治不干渉が鉄則なのに、公爵がその様な裏工作をしていたなんて。オリビエは背筋が凍る思いだった。


――遠い記憶が、マリアンヌの脳裏に蘇る。


『マリアンヌ様・・・相談があるんですけど・・・』


かつて、あの魔女は、いつも申し訳なさそうに肩をすくめながら話しかけてきた。優れた占星術の腕を持ちながら、決して自分に自信を持てない、不器用な人だった。


「だけど、その妾に出した子は・・・公爵の子を産んだけれど、死産してしまった」


言葉を切り、マリアンヌは静かに目を伏せる。


「あろうことか、公爵はその子を『用無し』として、追い出してしまったのよ」


「そんな・・・」


ロナが、思わず口元を押さえた。妾の子とは言え子爵令嬢として育てられた自分には、想像もできないほど非情な仕打ちだった。


「ベアトリクスは、必死にその子を探したそうよ。だけど・・・見つかった時には、既に亡くなっていた」


『私の・・・私のせいで・・・』


あの日、報告に来た彼女の顔は、今でも鮮明に思い出せる。血の気の失せた、絶望に染まったあの表情を。


「それでも彼女は、公爵に逆らえず、従う日々を送っていたわ」


一度言葉を切り、マリアンヌは深く息を吸った。


「そして――予言の魔女の占星術で、ある結果が出たの。『ブラックモア公爵を殺す少女が現れる』と」


その一言に、リリィの体が、びくりと強張った。


「リリィ、貴女よ」


「――!」


固唾を呑むリリィ。誰もが、言葉を発せずにいた。


「公爵は、ベアトリクスに貴女を殺すよう命じた」


マリアンヌは続ける。


「けれど・・・彼女は迷っていた。彼女なりに、思う所があったのでしょうね・・・そして、私の元に相談に来た」


『マリアンヌ様・・・私はどうすれば・・・』


震える声で、あの魔女は自分のもとを訪れた。公爵への恨み、命令への恐怖、そして少女への罪悪感――全てが綯い交ぜになった、苦悩そのものの表情で。


マリアンヌの声が、微かに揺れる。


「その時よ。私が……興味本位で、『その少女がどんな力を持った子か、占星術で視てみてよ』って、言ってしまったの」


その一言を口にする時、マリアンヌの表情には、隠しきれない悔恨が滲んでいた。


「占星術で視た彼女は・・・驚いていたわ」


その瞬間、彼女の顔から血の気が引いていくのを、今でもはっきりと覚えている。


「『ブラックモア公爵と、予言の魔女自身を殺す――強大な魔力を持った少女』。そう、出たの」


静寂が、部屋を支配する。


「そして彼女は・・・リリィを殺す決心をしてしまった」


マリアンヌは、深く目を伏せた。


「私の、不用意な一言のせいで・・・」


その声には、10年間、片時も消えることのなかった、深い自責の念が滲んでいた。

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