【第4章-2】交流戦に潜む悪意
交流戦当日、会場となった闘技場には、ロラカント魔法学院から訪れた生徒たちの姿があった。
「初めまして、僕は彼らの引率で来ましたルーファスです。今日はよろしくお願いします」
物腰穏やかな引率教員が、ガルシアと丁寧に挨拶を交わす。それに倣うように、両校の生徒たちも互いに礼を交わしていった。
「よろしくお願いします」
リリィも、緊張しながらぺこりと頭を下げる。相手側の生徒たちの視線が、ちらちらとリリィに向けられているのが分かった。噂に聞く「終焉の魔女の弟子」――その本人を、皆どこか興味深そうに観察している。
――
そして魔法交流戦の幕が上がった。先鋒を務めるアーサーは相手の怒涛の攻撃を躱しつつ大きな一撃の雷魔法を炸裂させて相手の気絶させた。
「よっしゃー!」
アーサーは喜び、先制点に沸く観客席。リリィも初めて見る光景に目を輝かせ興奮気味に見ていた。
しかし、次鋒のタリアが緊張のあまり本来の実力を発揮出来ないまま敗北してしまう。
「うぅ・・・ごめんなさい・・・」
「大丈夫だよ!タリアさん!」
「リリィちゃーん!悔しーい!」
負けた事に悔しがりながらリリィを抱きしめるタリアに何処か複雑な気持ちを抱くオリビエがいた。
中堅のグレッグは堅実に戦うも、長期戦に持ち込まれ魔力切れを起こしたグレッグが敗北してしまう。
「・・・すまない・・・」
寡黙なグレッグだが、その言葉に悔しさが滲んでいるのが分かった。
1対2となり副将戦で敗北してしまえば、マクスウェル魔法学院の敗北になってしまう。全てはオリビエに掛かっている。
「オリビエ、頑張って」
リリィが声を掛けると、何時もの爽やかさはなく、真剣な表情だった。
「あぁ、負けはしないさ」
そう言い、オリビエは試合場へ向かう。
「――行くよ」
試合が始まるや否や、オリビエは広範囲に及ぶ氷魔法を一気に展開する。相手はその圧倒的な規模と精度に、反撃の糸口すら掴めないまま、あっという間に追い詰められていった。
「――終わりだ」
静かな一言と共に、勝負は決した。
「ほよ~。オリビエって凄いね。カッコよかったよ」
戻ってきたオリビエに、リリィは目を輝かせながら駆け寄る。その素直な賛辞に、オリビエは珍しく照れくさそうに視線を逸らした。
「ここで負ける訳にはいかなかったからね」
そして、少し声を落として付け加える。
「それに――リリィの前で、カッコ悪いところは見せたくなかったから」
「ほよ?」
きょとんと首を傾げるリリィに、オリビエは小さく笑うだけで、それ以上は何も言わなかった。
2対2となった交流戦、次の大将戦で勝敗が決する。ロラカント側の大将はメルジオと言う少年だ。リリィは少し緊張していたが、オリビエが優しく声を掛ける。
「大丈夫、彼とは、去年も戦ったことがあるんだ。紳士的で、なかなか良い人だったよ。だから――いつも通りにやればいい」
その言葉に、リリィは小さく頷き、深呼吸をしてから試合場へと足を踏み入れた。
――
『始め!』
審判の声と共に、試合の火蓋が切られた。
先手必勝とばかりに、メルジオは大量の氷の矢を瞬時に構築し、リリィめがけて放つ。
だが――リリィは動じなかった。淡々と防御魔法を展開し、降り注ぐ全ての氷を防ぎきる。
「――!」
わずかに目を見開いたメルジオを、今度はリリィが風魔法で狙う。しかし、メルジオは既に走り出しながら次の氷魔法を構築し、応射してみせた。
それでもなお、リリィは一切の動揺を見せず、防御魔法でその全てを弾き返す。
しばしの静寂。
メルジオは、ふと足を止めた。その口元に、不敵な笑みが浮かぶ。
「・・・”あの方”の情報通りなら、ここらで揺さぶるのが良さそうだ」
誰にも聞こえないほどの小さな呟き。そして、彼は両手を大きく広げると――試合場の縁に沿うようにして、炎の魔法を展開し始めた。
赤々と燃え上がる炎が、リリィの視界いっぱいに広がっていく。
「ひっ・・・!?」
その瞬間、リリィの中で何かが弾けた。
燃え盛る炎。逃げ惑う人々の悲鳴。崩れ落ちる建物。瓦礫の下で動かなくなった、両親の姿――
「や・・・やめて・・・」
震える声は、掻き消えるように小さかった。がたがたと震える体を抑えることもできず、リリィはよろよろと後ずさる。
その怯えきった姿を見て、メルジオはくつくつと、不気味な笑い声を漏らした。
「さあ――ここからは、狩りの時間だ」
その表情は、オリビエが語っていた「紳士的な好敵手」とは、似ても似つかないものだった。
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