【第4章-1】知らないところで決定していた事
「ある事」が決まったのは、いつもの昼食の席でのことだった。
「そうだ、リリィ」
爽やかな笑顔で切り出したオリビエに、リリィはパンを頬張りながら首を傾げる。
「来月行われる、ロラカント魔法学院との『魔法交流戦』――その大将に、君が選ばれたよ」
「――ほよ!?」
思わず口の中のパンを噴き出しそうになりながら、リリィは目を丸くした。王都から南東部にあるマクスウェル魔法学院の次に有名なロラカント魔法学院との交流戦は両学院の恒例行事となっている。出場メンバーを5人選び先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の順に戦い勝ち点の多い学院が勝利となる。因みに現在は132戦中74勝58敗である。
「私が!?どうして!?」
「そりゃあ、この学院で最も強い人物が大将に選ばれるからね」
オリビエはあっさりと答える。
「リリィが適任だと、僕が推薦したんだ。勿論、満場一致だったから安心して」
何が安心なんだろう。その一言に、リリィの口がぱくぱくと開閉を繰り返す。まるで、信じられない話を聞かされた金魚のようだった。
「去年は僕が大将だったけど、今年はリリィに譲るよ。僕は副将を務めさせて貰うよ」
にっこりと笑うオリビエ。その口ぶりからして、これはもう覆しようのない、決定事項らしかった。
「ロナ~、どうしよぉ~・・・」
縋るような目で隣のロナに泣きついてみるが。
「あら、交流戦で大将だなんて、名誉な事よ?」
あっけらかんとした返事が返ってくるだけだった。
「ミ、ミリアム~・・・」
今度はミリアムに助けを求める。だが。
「当日は、四賢者の守護の魔術師様と、魔匠の魔女様の合作――五重結界の魔導具を張った会場だから、貴方も全力で戦えるわよ」
むしろ心なしか、その戦いを心待ちにしているような口ぶりだった。
「う、うぅ~。ティオ~・・・」
最後の砦とばかりにティオに縋りつくが。
「守護の魔術師様と、魔匠の魔女様の合作魔導具・・・これは見逃せない!」
いつになく興奮気味な様子で、メガネの奥の目がきらきらと輝いていた。
「リリィ、諦めなさい・・・」
ロナが慰めるように、リリィの肩をぽんぽんと叩く。誰一人として、味方になってはくれなかった。
そんな一部始終を眺めながら、オリビエは楽しそうに笑っていた。
「やっぱり、リリィは面白いね」
「ほよぉ・・・」
がっくりと項垂れるリリィの姿は、もはや逃げ場のない小動物のようだった。
――
授業後、交流戦に出場するメンバーで強化特訓が組まれることになり訓練場へ集まる。リリィ以外は上級生で、副将のオリビエを始め先鋒を務める2年のアーサー・レクトン。次鋒を務める2年のタリア・グランディー。そして中堅を3年のグレッグ・ハイルニアが務める。
「ほよ、初めまして・・・リリィ・クローデルです」
初めて会う上級生達にリリィは挨拶をする。するとタリアが嬉しそうに近づいて来る。
「キャー!貴女が施設破壊女子のリリィちゃんね!かっわいー!!」
リリィを見るや否やタリアはリリィの両腕を掴みブンブン振り更には抱きしめる。施設破壊女子にリリィは反論しようとしたが、実際リリィは施設に大穴を開けたりしていたので否定は出来なかった。
「よう、お前が期待の大将だな。俺はアーサー、先鋒を務めるぜ」
赤みがかった髪のアーサーが気さくに話しかける。さっぱりとした雰囲気が印象的だった。
「グレッグだ・・・噂は聞いてる」
黒髪で大柄なグレッグは寡黙なのか、期待しているとだけ言う。
「このメンツなら今年は余裕じゃね?なぁ?オリビエ!」
アーサーが興奮気味に言う。昨年は3年の実力者とオリビエの活躍で勝利しており、今年も余裕で勝てるぜと意気込む。
「ははっ、でも油断は禁物だからね」
オリビエがそう言うと、リーシャが訓練場に現れた。全員静かになり整列する、リリィもそれに倣い整列をする。
「貴様らはこの学院を背負ったメンバーだ!交流戦で恥じぬ戦いをするように!」
リーシャが高らかと言うと全員で「はい!」と答える。(リーシャ先生ってこういう時、鬼軍曹になるよな)とアーサーがこっそりと言うと、聞こえていない筈のリーシャはアーサーの前に来て首根っこを掴む。
「ほぅ?誰が鬼軍曹だって?そんなに私直々に特訓されたいようだな?」
静かに言うリーシャに一同の背筋が凍るが、当のアーサーは顔が真っ青になっていた。
「い、いや・・・言葉のあやと言うか・・・」
弁明をしようとするも、アーサーはそのままリーシャに引っ張られる。そしてリーシャは「それぞれ苦手な部分を強化するように!」と言う。しかし、リーシャは思い出したように立ち止まりリリィの方を見る。
「クローデル、お前は見学だ。ここを壊されたら私が始末書を書く羽目になるからな」
そう言い再びアーサーを連れて行く。
「ほよ・・・」
まさか見学と言われると思っていなかったリリィは訓練場の隅で座る事にした。
そう言えば魔法の手合せをした事が無かったなぁと思いつつ、リリィは他のメンバーの動きを観察する。
オリビエは氷魔法が得意なのか、床を氷漬けにして相手を封じ氷の礫で攻撃する戦法を取っていた。
タリアは広範囲の魔法と罠で相手を翻弄する戦法が得意なようだ。しかし、何処か動きが硬い。
グレッグは無駄に動く事は無く、相手の隙を突く堅実な戦い方をする。その観察眼はリリィも目を見張るものがあった。
「いや~私、初めて出るから緊張するのよね~」
「ほよ?そうなんですか?」
「アーサーとグレッグ君も初めてなんだけどね、私はあんま大勢の前で戦うって思うと緊張しちゃうんだよね」
あはは、と言いタリアはリリィの隣に座る。そうか、上級生でも交流戦では緊張するのだなとリリィは少し安心した。
「でも流石オリビエ様よね、短縮詠唱で相手よりも早く制圧出来るんだもん」
「ほよ?短縮詠唱?」
魔法を行使するのに詠唱が必要と言う事は知っている。しかし短縮詠唱と言うのは初めて聞いた気がするとリリィは首を傾げる。
「首を傾げるリリィちゃんも可愛いわね~。短縮詠唱っていうのはね、威力はそのままに詠唱を短縮する技術の事よ。かなり難しい技術なんだけど、それを使いこなせるオリビエ様はやっぱ凄いわね」
タリアが簡単に説明をする。つまりリリィの無詠唱と通常の詠唱の間くらいのものかなとリリィは結論付けた。
「ほよ~オリビエって凄いんですね~」
他の人には出来ない事をこなしてしまうオリビエは一体どれだけの努力を重ねたんだろうとリリィは感心する。自分も頑張ろうと意気込む。
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