【第1章-2】まるで悪役令嬢みたい
マクスウェル魔法学院
王国内で最高峰の魔法学院である。かつては貴族だけが入学出来る魔法養成校だったのだが、現学院長ガルシア・オルランドゥと四大公爵家の一つアークレイン公爵筆頭の革新派の尽力により平民にも門徒を広げた事で入学希望者は増加した。それにより入学試験を設けて上位30%の生徒を受け入れる様になった。試験は筆記と実技に分かれており、特に実技試験では魔力量だけでなく魔法の威力や射程、構築の精度を計る。筆記が良くても実技で一定の成績を収めねばならない。
試験の受付を済ませたリリィとロナは試験開始まで、雑談をしていた。
「私はオロフェア子爵家の者だけど、貴女はどこか貴族のお方?」
「ほよ・・・ロナさん貴族の方なんですか?私は普通の平民・・・です。」
まさかロナが貴族とは知らずに普通に接していたが、初めて会う貴族にリリィは敬語で話し始める。そんな姿を見たロナはクスリと笑う。
「敬語でなくて良いわよ。それに”ロナさん”じゃなくてロナで良いわ。子爵家の娘って言っても、妾との子供だから・・・」
何処か寂しそうな、悲しそうな顔をするロナにリリィは思わずロナの頭を撫でる。
「妾とか、良くは分からないけど。ロナはロナだと、私は思うよ」
微笑むリリィを見たロナは、貴族としてのロナを見ているのではなく同じ年頃の子として見ているリリィを見て口元が緩む。
「ありがとうリリィ。今日から私達、友達ね」
「うん!」
笑顔で答えるリリィの前に1人の少女が話しかけて来た。
「あら、誰かと思えば。ロナじゃありませんの」
ブロンドの髪に縦ロール、そして扇子で口元を隠しながら、どこか人を見下したような視線をロナに向ける少女。その目が、ふとリリィの方に移る。上から下まで、まるで値踏みするようにねっとりと。
「今日は小さなメイドを連れて試験に挑むのですの?」
「わ、私も受験生だもん!」
プンプンと頬を膨らませて怒るリリィだったが、その姿はやはり全く迫力がない。
「あら、そうでしたの? てっきり小さなメイドかと思いましたわ」
少女はさも意外そうに扇子を揺らすと、ふふん、と鼻で笑った。
「まあ、せいぜい頑張ってくださいまし。トップは私で決まりでしょうけれど」
オホホホ、と絵に描いたような高笑いを残し、少女は去っていった。その後ろ姿を見送りながら、リリィは首を傾げる。
「ねぇねぇ、あの人も貴族なの?」
「えぇ、キャロライン・レイクロード・・・ネヴラスト伯爵家の令嬢よ」
「ほよ~、じゃあ強いの?」
ロナは呆れた表情を隠しもせずに答えた。
「あの女、本来の魔法の腕は中の下ってところよ。お金でトップの座を買おうとするあたり、いかにもあの女らしいわね」
「ほよ?」
「貴族の世界なんて、そんなものよ」
リリィは初めて知る貴族の話に首を傾げるのだった。
そして、筆記試験が始まり指定の席に座り答案用紙に答えを書いていく。
(どの問題も師匠が教えてくれた内容だ・・・)
もしかしたら、マリアンヌはこの為に座学を教えていたのではないか?と嬉しくなり思わず笑みが零れる。
筆記試験が無事に終わり、次は実技試験である演習場へと案内された。そこに爽やかで平民ながら清潔感のある青年が現れる。
「俺はケビン、君たちの試験官を務めさせてもらう」
朗らかな声で挨拶をすると、ケビンは試験の説明を始めた。
「試験内容は簡単、20メートル先の的を魔法で壊して貰う。的を壊す事で威力、射程、魔法構築の精度を見させてもらう。皆、緊張せず気楽にやってくれ」
説明を終えると、名前順に受験生が呼ばれていく。それぞれが得意の魔法を放ち、的を焦がし、凍らせ、あるいは弾き飛ばしていく。周囲からは「さすが」「見事だ」といった声が上がる。
そして、ついにリリィの番が来た。
「ほよ・・・上手く出来るかなぁ・・・」
慣れない大勢の視線に、リリィは珍しく緊張していた。指先が微かに震える。そんな彼女に、ケビンは気さくに笑いかけた。
「大丈夫、“いつも通り”に撃てばいいよ」
「いつも通り・・・」
その言葉に、リリィの脳裏に山奥での日々が蘇る。
魔法で大岩を吹き飛ばした時。
災牙猪を始めとした大きな魔物と戦った時。
マリアンヌに何処かの山で自力で家に戻って来なさいと置き去りにされた時。
そうだ、”いつもの様に”やれば良い。リリィは深呼吸をし頭の中で術式を構築する。詠唱はしない。リリィの周りに風が吹き始める。
「えいっ」
リリィのその一言で魔法は放たれた。
暴風と呼ぶに相応しい風の衝撃波が的を紙切れの如く破壊する、それだけでは飽き足らず余波は訓練場の外壁までも吹き飛ばし、砂煙が辺りを覆い尽くす。
的の近くに居たケビンは余波に巻き込まれて盛大に大空へ吹き飛ばされていた。そして受験生たちが見守る中、彼はきれいな放物線を描いて地面に叩きつけられ、意識を失った。
――さらに、あろうことか、失禁までしてしまった。
「な、何だ今の威力!?」
「威力もそうだけど、詠唱してなかったぞ!? どうやって!?」
「あんな可愛い見た目してあの威力かよ!?」
「ケ、ケビン先生ぇぇぇぇぇ!?」
砂煙の中、慌てふためく受験生たちの声が飛び交う。地面に倒れたケビンの周りに、他の教師たちが慌てて駆け寄っていく。
その騒然とした光景の中心で、リリィだけがきょとんとした顔で立っていた。
「ほよ?」
”いつも通り”に魔法を放っただけなのに、何故こんなに慌てふためくのだろう。リリィは疑問に思っていた。
(凄い威力の魔法・・・あんな凄い子と友達になれて、嬉しい)
その様子を見ていたロナは驚きつつ友達の活躍に嬉しく思うのだった。
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