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【第1章-1】可愛い弟子には旅?をさせろ

レイヴラント王国の南東部の山奥にひっそりと佇む小さな家、5歳のリリィがここへ来てから、もう10年になる。リリィは相変わらずマリアンヌの非常識な修行を送りつつ、魔法の成り立ちや魔法史、魔法薬、薬草学、魔導具、魔法に関わる知識を余すことなく叩き込まれた。


「師匠、何時まで寝てるんですか。もう朝ですよ」

「うぅん・・・あと5分・・・」

「それ、さっきも聞きました。ほら、早く起きてください」


そう言いリリィは掛け布団を引っぺがす。ひんやりとした空気がマリアンヌの身体を突き刺し目が覚める。


「扱いが雑よリリィ。もう少し優しくして・・・」

「優しくって、ただの二日酔いじゃないですか」


こんなやり取りももう慣れっこになったリリィはそのままスルーして窓を開ける。冬が過ぎ春がもうすぐ訪れを迎えるこの季節でも、朝は寒い。部屋に冷たい風が入ってリリィは気分がしゃんとした。しかしマリアンヌは、掛け布団を奪われ外気が入って来た事でガクガクと震えていた。


「ちょっと、窓をしめなさいよ。寒いじゃない」

「お部屋も空気の入れ替えしないとダメですよ。ほら、そんなとこで蹲ってないでご飯食べますよ」

「は~い」


どっちが年上なのか分からない会話をし、マリアンヌはようやく起き上がる。黒髪ロングなマリアンヌはその所作も絵になる。


「いただきます」

「いただきます」


マリアンヌを叩き起こして共に朝ご飯を食べる、この日常にリリィは嬉しく思う。10年前、ファラスで起きた凄惨な事件。「反逆の魔女事件」と呼ばれたそれは、錯乱したベアトリクスが貴族を襲いマリアンヌがそれを阻止したと言われていた。当時、リリィは両親を失った事で塞ぎ込んでいたが、今ではこうして元気にしている。それもマリアンヌのお蔭だとリリィはマリアンヌを尊敬し大好きな師匠だと思っている。


「そうだ、リリィ。貴女に渡す物があるの」

「ほよ?渡す物ですか?」


そう言いマリアンヌは机の引き出しから封筒を取り出しリリィに渡す。リリィは封筒の中身を取り出すと、そこには一冊の冊子、何かの申請書、そして推薦状だった。


「師匠、これは?」

「それは”マクスウェル魔法学院”の入学試験の申請書よ。貴女はもう15歳だし、そろそろ学校に通って友達を作るのが良いと思ったのよ」


その言葉にリリィの胸はじんわりと温かくなる。学院で同年代の友達と過ごす日々、それはリリィが憧れていたものだ。それは間違いないのだが、リリィは冊子を見て怪訝な顔をする。そこには全寮制と書かれていたのだ。リリィは自分が居ないとすぐにお酒を飲むマリアンヌを知っている。リリィが寮生活を送ればどうなるか、想像するに容易い。


「師匠、この学院。全寮制って書いてありますけど」

「えぇそうよ。私も昔はここに居たもの」

「私が居ないと絶対ずっとお酒飲んでるでしょ?」

「そ、そんな事ないわよ? 何とかなるわ。貴女を引き取る前だって、私は一人で立派に生活していたんだから」


得意げに胸を張るマリアンヌ。しかし、その視線がわずかに泳いでいることをリリィは見逃さなかった。


(・・・絶対、私が居ない間に飲み放題する気だ)


半目で師匠を見つめながら、リリィは深いため息をついた。だが、こんなに嬉しそうに送り出してくれる師匠を前に、それ以上何かを言う気にはなれなかった。


2日後、試験を受ける為にリリィは必要な物を鞄に詰め支度をする。試験が終わればこの家に帰るのだが、リリィはそれでもマリアンヌの事が心配だった。


「師匠、行ってきます。ちゃんとご飯食べてくださいね。あと、お酒はほどほどに」

「はいはい、分かってるわよ。・・・リリィ」


珍しく神妙な顔をするマリアンヌに、リリィは首を傾げる。


「ほよ?」

「・・・貴女なら、大丈夫よ」


短い言葉だったが、そこに込められた想いは十分に伝わった。リリィは笑顔で頷き、浮遊魔法で王都へ向かう。


「ほよ~、人がいっぱい!建物も大きい!」

王都レイヴラスに着いたリリィの第一声だった。行き交う人々、商人の声、大きなレンガ造りの建物。10年も山奥で暮らしていたリリィにとっては麓にある村以上の規模の街が初めてで全てが新鮮だった。


きょろきょろと辺りを見回しながら歩くリリィだったが、慣れない都会の喧騒と入り組んだ道に、次第に方向感覚を失っていく。


「あれ・・・? 魔法学院って、どっちだっけ・・・」


気づけば、リリィは知らない路地に迷い込んでいた。


「ほよ・・・」


途方に暮れて立ち尽くすリリィに、ふと声がかかる。


「お嬢ちゃん、迷子?」


振り向くと、上品な佇まいの少女が心配そうにこちらを見ていた。育ちの良さを感じさせる仕草で、少女はリリィに手を差し伸べる。


「どこに行きたいの?」

「ほよ・・・私、マクスウェル魔法学院に行きたいんですけど、道が分からなくなっちゃって」


えへへ、とはにかみながら、リリィは推薦状を取り出して見せた。それを見た少女は、目を見開く。


「えっ、それって貴女、魔法学院の受験生ってこと!? 私と同い年じゃない!?」


同い年で同じ学院の受験生である事に驚く少女、リリィは同年代より小さい身長であるが故に間違えるのも無理もない。しかし子ども扱いされたリリィは怒る。

「わ、私、子供じゃないもん!今年で15歳だもん!」


プンプンと頬を膨らませて怒るリリィだったが、その様子はまるで怖くない。むしろ愛らしいとすら言えるその姿に、少女はくすりと笑った。


「ゴメンゴメン。私はロナ・マーセナス。貴女と同じ、マクスウェル魔法学院の受験を受けるのよ」


ロナと名乗った少女は、にっこりと微笑んで手を差し出した。


「良かったら、一緒に行きましょう?」


その提案に、リリィの顔がぱあっと輝いた。


「本当ですか!ありがとうございます!私、リリィ・クローデルです!」


差し出された手を、リリィは迷わず握り返した。


こうして、リリィにとって初めての友達となる少女との出会いが、静かに幕を開けた。二人は連れ立って、マクスウェル魔法学院への道を歩き出す。

ここまでお読みいただきありがとうございます!面白いと思っていただけたら、ぜひ『ブックマーク』や『評価(☆☆☆☆☆)』をよろしくお願いします!

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