【第3章-3】キャロラインの懺悔と謝罪
「毒尾蠍って・・・この辺には居ないはずよ?」
ミリアムが眉をひそめ、思わず聞き返す。
「間違いじゃないの?」
「た、確か・・・毒尾蠍って、もっと乾燥してる地域を住処にしている筈、です……」
ティオもおずおずと補足する。毒尾蠍は大型の魔物で、本来は乾燥地帯に生息する種だ。この森のような湿潤な環境には、まず現れることのない魔物のはずだった。
強さもまた、この森に棲む小型の魔物たちとは比較にならない。尻尾から強力な毒を噴射し、獲物を弱らせたところを巨大な鋏で捕食する――危険度の高い魔物として知られている。
「うん、でも」
リリィが頷く。
「間違いない。この森に、迷い込んだのかも」
その言葉に、その場の空気が一気に張り詰めた。
「早く離れましょう。先生にこの事を伝えないと」
ロナがすぐさま立ち上がる。
「そうね。リリィ、位置は分かる?」
「うん、そこまで近くじゃないから大丈夫だよ」
リリィも立ち上がり、4人は急いでリーシャ達のもとへと向かった。
「え?毒尾蠍ですって?」
報告を受けたリーシャは、目を見開いて驚きの声を上げた。
「はい。リリィが魔力探知で見つけたので、間違いありません。多分、迷い込んだのだと思います」
ミリアムがはっきりと告げる。
「確か・・・あっちは、キャロラインの班が向かっていたわ」
リーシャがそう呟いた、その瞬間だった。
「――!」
リリィが、リーシャの制止の声を振り切るようにして駆け出していた。
「――ちょっと、クローデル!」
「まったく、あの子は・・・私とケビン先生に任せればいいものを!」
リーシャが呆れたようにため息をつく。
「それが、リリィの良い所ですわ。リーシャ先生」
ロナが誇らしげに言う。
「まぁ、ケビン先生も他の班の方へ行っていて、正直手が足りないのは事実だから――助かるのだけどね」
リーシャは苦笑しながら、リリィの実力を素直に認めるように呟いた。森を破壊しないかの心配もしつつ・・・
その頃。
キャロラインは、脚が震えて一歩も動けずにいた。同じ班の生徒たちと一角ウサギを討伐するところまでは、順調だった。だが、角を回収しようとしたその時――突如として、あの魔物が姿を現したのだ。
「何で・・・こんな魔物が・・・」
震える声で、キャロラインは目の前の光景から目を逸らせずにいた。毒尾蠍は、討伐したばかりの一角ウサギの死骸を一瞬で捕食すると、ゆっくりと鎌首をもたげ、キャロラインたちの方へと視線を向けた。まるで、次の獲物として値踏みするかのように。
「い、いや・・・!」
同じ班の生徒の1人が、恐怖のあまり悲鳴じみた声を上げながら炎魔法を放った。だが、その一撃は毒尾蠍の分厚い甲殻に阻まれ、傷一つつけることができない。それどころか――魔物の怒りを買うには、十分すぎる一撃だった。
「――!」
巨大な鋏が振り上げられる。狙いは、恐怖で動けなくなっているキャロラインたちだった。
(誰か・・・)
目を瞑り、キャロラインは心の中で叫ぶ。
(誰か、助けて――!)
鋭い衝撃音と共に、何かが激突する音が響いた。だが――痛みは、来なかった。
「・・・え?・・・」
恐る恐る目を開けたキャロラインの視界に映ったのは、目の前に展開された、淡く輝く防御魔法の壁。そして、その魔法を展開して立っている、小さな背中だった。
「リ・・・リリィ・・・?」
リリィが毒尾蠍を見据えて、キャロライン達を守ったのだ。
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