【第3章-2】招かれざる訪問者
街道から少し外れた場所に広がるこの森は、小型の魔物が多く生息する、自然豊かな場所だった。
「ほよ~。やっぱ、師匠と住んでた所とは違うね~」
生い茂る木々を見上げながら、リリィは懐かしそうに目を細める。
「マリアンヌ様と住んでた所って、どんな場所だったの?」
ふと気になって尋ねたロナに、リリィはあっけらかんと答えた。
「えっとね、山がいっぱいで、周りは森ばっかりだったよ。魔物も一杯いてね、天嵐狼とか、災牙猪とかいたよ」
「天嵐狼と、災牙猪・・・」
ミリアムが、もはや驚きも隠さず突っ込む。
「それ、”災害級の魔物”じゃない」
「ほよ?そうなの?師匠はちょっと大きな魔物って言ってたよ?」
きょとんと首を傾げるリリィに、ロナとミリアムは思わず顔を見合わせた。
(あの師匠にして、この弟子あり・・・ね)
2人の胸中で、まったく同じ感想が浮かんでいた。
やがて、一角ウサギの生息地帯へと辿り着いたリリィたちは、茂みに身を潜めながら作戦を練り始めた。
「リリィ?貴女が魔法を使うと、一角ウサギどころか森ごと消し飛びかねないから、ここは私たちがやるわ」
ミリアムが冷静に釘を刺す。
「ほよ、ごめん・・・」
しゅん、と肩を落とすリリィに、ロナが優しく笑いかけた。
「大丈夫よ。貴女も威力を抑える練習してるんだから、いつかちゃんと使えるようになるわ」
「うん・・・頑張る」
こくりと頷くリリィを尻目に、ミリアムはティオに目を向ける。
「ティオ、一角ウサギの位置分かる?」
「え、えっと・・・正面に1体。その左に、2体、います」
魔導具を覗き込みながら、ティオが的確に位置を把握する。
「じゃあロナ、貴方は正面をお願い。私とティオで、左の2体をやるわ」
「ええ、じゃあリリィ」
ロナはにっと笑い、リリィの頭をぽんと撫でた。
「私たちの活躍、見てなさい」
「うん、気を付けてね皆」
リリィが笑顔で見送る中、3人は静かに散開する。
ロナが放った雷魔法が、一角ウサギの体を鋭く痺れさせる。動きが止まったところへ、追撃の一撃――それで、あっさりと決着がついた。
一方、ミリアムは水魔法で無数の小さな礫を作り出し、一角ウサギに向けて一斉掃射。避ける間もなく、獲物は地に伏せる。
そして、ティオは風魔法で複数の刃を形成し、正確な軌道でもう一体を切り伏せた。
「ほよ~、みんな凄いね!」
その一部始終を見ていたリリィは、目を輝かせながら手を叩く。
「貴女程じゃないけど、私たちだってちゃんと出来るのよ」
ミリアムがどこか得意げに笑う。
「さあ、角を回収して戻りましょう」
ロナの号令で、ティオが手際よく角を切り落とし、回収していく。
その、まさに直後だった。
「――え?」
リリィの目が、大きく見開かれた。
森全体に薄く展開していた魔力探知――森や山に入る時は展開する様マリアンヌから教えられ、今でも無意識に展開していた魔力探知が何かを捉えた。
未知の反応。小さく、しかし確かにこちらへ近づいてくる、禍々しい気配。
「これ……毒尾蠍……?」
小さく呟いたリリィの声に、しかしロナたちはまだ気づいていなかった。まだ距離はある。だが、それは確実に――この森に、迷い込んでいた。
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