【第3章-1】キャロラインの後悔
謹慎中の自室で、キャロラインは1人、膝を抱えるようにベッドに座り込んでいた。窓の外を眺めながら、何度も何度も、あの日の光景が脳裏に蘇る。
――ヘクターに言われるがまま、リリィを隠し部屋へと誘導した。
聞かされていたのは、ただ「炎魔法で脅かして、隠し部屋にしばらく閉じ込める嫌がらせをするだけ」という話だった。それだけなら、自分の嫉妬や苛立ちの延長線上にある、ただの意地悪だと思っていた。
だが、実際に起きたことは、まるで違った。
ヘクターはリリィを殺すと言った。魔法阻害の魔導具を利用しリリィの魔法を封じ、雷の矢を容赦なく放った、殺意があったのは明らかだ。リリィは必死に逃げ惑いながらも――自分に矢が当たらないように、キャロラインの位置を気にかけていた。
そして、あの瞬間。
迷いなく、リリィは自分を突き飛ばして庇った。
『嫌がらせされても、傷つけるのは違うから』
そう言って。
たったそれだけの理由で。同じクラスメイトだから、というだけの理由で。
今まで散々、陰湿な嫌がらせをしてきた相手のはずなのに。
(なんで、あの子は・・・)
あの時、自分は何と言いかけただろうか。喉元まで出かかった言葉――死なないで。
そんな言葉が自分の口から出かけたことに、キャロライン自身が誰よりも驚いていた。今までの自分では、絶対に考えられないことだった。
(私は・・・あの子に、なんて酷いことを・・・)
顔を覆うように、両手で目元を押さえる。
思い返せば、自分がしてきたことは、あまりにも幼稚だった。才能への嫉妬、生まれの違いへの苛立ち――それを全部、リリィという一人の少女にぶつけていただけ。伯爵令嬢の名が聞いて呆れる。
(リリィに・・・ちゃんと、謝りたい)
数日後、謹慎が解けたがどうしても一歩が踏み出せずにいた。話しかけようと廊下で機会を伺っても、リリィの周りには必ずロナやミリアム、ティオがいる。あの温かい輪の中に、自分が割って入る資格などあるのだろうか――そんな迷いが、いつもキャロラインの足を止めてしまうのだった。
数日が経ち、入学して初めての課外授業が行われることになった。場所は学院から少し離れた森。リーシャとケビンが引率し、指定された魔物の討伐実習を行うというものだった。
「討伐対象は、一角ウサギだ」
森の入口で、リーシャが凛とした表情で説明を始める。
「小さいと思って油断すると、その角で負傷しかねない。皆、油断せず注意するように」
かつて王宮魔法師団に所属していた彼女の言葉には、実戦を知る者特有の重みがあった。重みがあり過ぎて最早、生徒は魔法師団の一員なのではと錯覚させられる。
「倒したら、角を回収するようにね」
続いて、ケビンがリーシャとは対照的な柔らかい口調で付け加える。
「各班、はぐれないよう気をつけて。何かあったら、すぐに声を上げるように」
最後にリーシャが締めると、生徒たちはそれぞれの班に分かれて行動を開始する。リリィもロナとミリアム、ティオと共に森へ向かう。
「一角ウサギって、お肉が柔らかくて美味しいんだよ!」
森へと足を踏み入れながら、リリィは目を輝かせていた。ロナ、ミリアム、ティオと同じ班を組み、初めての課外授業にすっかりわくわくしている様子だった。
「お、お肉・・・?」
「一角ウサギって、食べても大丈夫なのかしら・・・?」
ロナとミリアムは、思わず顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。魔物の肉を食したことなど、当然ながら一度もない。
「わ、私も、聞いた事は、あります・・・食用として流通してる、て・・・」
ティオがおずおずと補足すると、リリィはますます目を輝かせた。
「でしょ!師匠と一緒に食べたことあるんだけど、すっごく美味しいんだよ!」
脂と肉のバランスがとか、ローストにすると美味しいとか言い無邪気にはしゃぐリリィの様子に、3人は毒気を抜かれたように、揃って小さく笑った。
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