【第2章-5】たった一つの冴えたやり方
日が暮れてもリリィが戻って来ない事に一抹の不安を覚えたロナはミリアムとティオと共にゼシカに相談に向かっていた。
「え?リリィが戻って来ない?そう言えば見かけないねぇ」
「そうなんです、ゼシカさん何か聞いてませんか?」
ロナの問いかけにゼシカは眉をひそめ、しばらく考えるように顎に手を当ててから、ふと何かを思い出したように告げる。
「そう言えば・・・キャロラインも戻ってないって聞いたわねぇ」
その一言に、3人は同時に顔を見合わせた。
「キャロラインが関係してるんじゃ……」
「リリィに何かあったのかもしれないわ」
「せ、先生に言って、探すしかないですね」
ゼシカが慌てて教師陣に知らせに向かう中、ロナ、ミリアム、ティオの3人は、居ても立っても居られず、自分たちでも学院内を探し始めた。
「誰か・・・!お願い、誰か・・・!」
涙を流しながら、キャロラインは無我夢中で廊下を走っていた。
その時、曲がり角の向こうから、こちらへ駆けてくる三つの人影が見えた。
「――キャロライン!?」
真っ先に気づいたのはロナだった。普段の高慢な様子とはまるで違う、涙でぐしゃぐしゃになったキャロラインの顔に、ロナ、ミリアム、ティオは思わず足を止める。
「貴女!リリィをどうし・・・」
ロナがキャロラインに詰め寄ろうとするのをミリアムが引き留めた。キャロラインの様子から、何かを察したようだ。
「何があったの・・・!?」
問いかけるより早く、キャロラインはロナの腕にしがみついた。
「リリィが・・・!リリィが、大変なの・・・!」
「――!?」
その一言に、3人の顔色が変わる。
「ヘクター先生に・・・!お願い、助けて・・・!リリィを助けて・・・!」
震える声で、涙を拭いながら必死に訴えるキャロライン。詳しい状況を問い質す暇も惜しく、ロナは即座にキャロラインの肩を掴んだ。
「場所は!どこにいるの!?」
「こ、こっち・・・!こっちよ・・・!」
キャロラインが示した方向へ、4人は駆け出した。
その頃、部屋に残ったリリィは壁に手をつき、荒い息を吐いていた。全身に走る痛みと痺れに、立っているのがやっとの状態だった。
「ヘクター・・・先生・・・私・・・あの日の事・・・覚えてません・・・」
痛みと痺れに耐えながらリリィはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「あの日・・・本当に先生の師匠さんを・・・殺したなら・・・謝り・・・ます」
「謝って何になる?謝っても師匠は戻って来ねぇ!そんな事分かってる!でもな・・・お前を殺さないと俺も・・・!」
そこまで言うと喋り過ぎたとヘクターは苦虫を嚙み潰したような表情をする。リリィはヘクターは誰かに従っているのではと考える。
「ヘクター先生は・・・誰かに言われて・・・私を・・・殺そうとしてるんですか・・・?」
「――!?」
図星を突かれたのかヘクターは一瞬、驚いた表情を見せるがすぐに冷静になる。
「ここで死ぬお前に言ってもしょうがない」
そう言いヘクターは複数の雷の矢を放つ。リリィは反応が遅れ矢を受けてしまう。
「きゃぁっ!あぅ・・・」
痛みに耐えきれずリリィは遂にへたり込んでしまう。しかし、リリィの目はヘクターの持つ魔導具をしっかりと見据えていた。
ナイフ型の魔導具は雷の矢を形成する攻撃魔導具
そしてブレスレットの魔導具は魔法を阻害する魔導具
今、一番厄介なのは魔法を阻害の魔導具だ。これを突破する方法をリリィは考える。
(痛い・・・でも・・・ここで死にたくない・・・)
そんな想いがリリィを突き動かす。そしてリリィはマリアンヌの修行の日々を思い出す。
災害級の魔物を単独で討伐しろと言われたり
山頂から自力で家まで戻ってこいと言われたり
岩を風魔法で浮かせろと言われたり
『相手の魔法を見抜く事も重要よ』
ふと、マリアンヌが言った事を思い出した。魔法を見抜く、魔導具の特性を見抜けば、あるいは
(もしかして、魔法構築を阻害している・・・?)
考えてもみれば、リリィが術式を組んだ際に術式が霧散する様に消えていった。魔力事態を霧散していないのだ。
試しに右手に魔力を集中させると、魔力操作は出来た。
(やっぱり、術式の構築を阻害しているだけなんだ・・・)
リリィは痛みと痺れに耐えふらつきながら立ち上がる、膝はガクガクと震えよく立っていられるとリリィは思う。
「息の根を止めてやるよ」
ヘクターは雷の矢を展開しリリィへ放とうとする。しかし、リリィは右手を突き出し魔力を集める。魔力操作の授業で魔力を爆発させた失敗、それを意図的に引き起こそうと考えたのだ。リリィの周囲に魔力が溢れ雷の矢はその圧倒的な魔力に弾かれる。
「何!?」
驚きの声を上げて次々と雷の矢を放つもリリィの魔力に弾かれてしまう。
「これで・・・終わりです・・・!?」
リリィがそう言うと集めた魔力が暴走し爆発を起こす。その爆発をまともに受けたヘクターは吹き飛び、壁に叩きつけられ、そのまま崩れ落ちて動かなくなった。
「リリィ!!大丈夫!?」
ちょうどその時、駆けつけたロナ達が部屋に飛び込んできた。満身創痍で立つリリィの姿を目にした瞬間、ロナの顔から血の気が引く。
「リリィ・・・!一体、何が・・・!」
駆け寄るロナに、リリィは弱々しく微笑んだ。
「ほよ・・・だいじょぶ・・・だよ・・・」
しかし、その言葉を最後に、張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れる。限界だった体は、そのまま力を失い、リリィは意識を手放して崩れ落ちた。
「リリィ!!」
倒れる寸前にロナがリリィを抱き留める。リリィの静かな息遣いを確認したロナ達は安堵の表情を見せる。
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