【第2章-4】復讐すると言われても
放たれた矢をリリィは必死に回避する、剛腕獅子等の災害級の魔物とやり合った時に会得した体捌きが役に立っていた。しかし、回避するだけで魔法は相変わらず発動出来ず、リリィが矢を迎撃しようと氷魔法を構築しようとしても霧散してしまう。
(魔法が・・・使えない・・・)
こんな経験は初めてだとリリィの背に冷や汗が伝う。こんな時、師匠ならどうするんだろう、そう考えながら状況を見る。この部屋に居るのはリリィとヘクター、そしてキャロラインだ。当のキャロラインは、状況が飲み込めていないのか、その場に立ち尽くしたままだった。
(きっとキャロラインさんはヘクター先生に嫌がらせをするから私をここまで連れて来る様に言われただけ・・・)
だとすれば、彼女もまた利用された被害者だ。
(キャロラインさんに当たらないようにしないと・・・)
回避しながらも、リリィはちらちらとキャロラインの位置を気にかけていた。だが、その考えは、ヘクターに見透かされていた。
「この女に嫌がらせされて、それでも守ろうとするのか」
そう言うと、ヘクターは狙いを変え、キャロラインへと雷の矢を放った。
「・・・え?」
反応が遅れるキャロライン。眼前に迫る雷光に、体が硬直して動かない。
「嫌がらせされても・・・傷つけるのは、違うから!」
叫びながら、リリィは咄嗟にキャロラインへと駆け寄り、その体を突き飛ばした。
「――!?」
突然の衝撃に、キャロラインは尻餅をつくように床へと転がる。何が起きたのか分からぬまま、その目に映ったのは自分を庇うように、雷の矢の軌道上に立つリリィの背中だった。
「あっ――!」
避けきれず、雷の矢がリリィの足に直撃する。
「ひぐぅ・・・!」
外傷こそないものの、走る激痛と痺れに、リリィの顔が苦痛に歪んだ。膝から力が抜け、その場に崩れ落ちる。
「リ・・・リリィ・・・?」
床に座り込んだままのキャロラインは、目の前の光景が信じられないというように、震える声でその名を呼んだ。
自分をあれほど嫌がらせしてきた相手が――迷いなく、自分を庇った。
「あ・・・貴女。どうして、私を・・・?」
震える声で、キャロラインが問いかける。散々嫌がらせをしてきた相手を、なぜ迷いなく庇ったのか――その答えが、どうしても知りたかった。
「だって・・・私たち・・・同じクラスメイト・・・だから・・・」
ふらふらと、それでもリリィは自分の足で立ち、キャロラインの前に立ちはだかろうとする。
「わ、私。先生や、ロナ達を呼んできますわ。だから・・・」
死なないで――喉元まで出かかった言葉を、キャロラインは飲み込んだ。代わりに、震える足でその場から動こうとする。
そんなキャロラインに、リリィは苦しげな表情のまま、それでも優しく微笑んで頷いた。
「行って・・・」
その一言に、キャロラインは踵を返し、駆け出そうとする。
「――逃がさねぇよ」
低い声と共に、ヘクターがキャロラインに向けて雷の矢を放った。
「――!」
咄嗟に、リリィがその軌道に割り込む。
「きゃっ!!あぅ・・・!?」
甲高い悲鳴が、部屋いっぱいに響き渡った。
「――!!」
背後でその悲鳴を聞きながら、キャロラインは足を止めることができなかった。振り返りたい。助けたい。でも、今の自分に何ができるというのか――ただ涙をぼろぼろと零しながら、彼女は必死に廊下を走った。
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