【第2章-3】それは彼の復讐
夕方、この日もリリィは1人で炎魔法の特訓を終えて薄暗くなってきた廊下を歩いていた。しかし今日も成果はなく、リリィの足取りは重い。
(どうしても思い出しちゃう・・・)
首席であるのにも関わらず炎魔法だけが発動出来ない事に、次席であるミリアムに何だか申し訳ない気持ちになってしまう。小さくため息をつきながら階段を下りたその先に人の影があった。
「あら、リリィ・クローデル」
誰かを待っていたのだろうか、キャロラインが立っていた。リリィはもう遅いから一緒に寮へ戻ろうと言うが。
「ヘクター先生が貴女を呼んでたわよ」
「ほよ?ヘクター先生が?」
キャロラインがこっちよと言いリリィをヘクターの元へと案内する、リリィはきっとヘクター先生は何か大事な用があるんだと思いキャロラインの後ろに付いてく。やがて、廊下の突き当りに来たキャロラインは壁に手を当て魔力を流す。
隠し部屋、魔法学院に複数存在する部屋にヘクターが待っていると言いリリィを中へ誘う。リリィはどうしてこんな隠し部屋にヘクター先生がいるのだろうと疑問に思ったが、きっと聞かれたくない話しなのかもしれない、そう考え中へ入る。
中へ入ると、そこは比較的広く本棚や何かの実験の道具らしきものが置かれていた。そして、部屋の中心にはヘクターが立っていた。いつもの穏やかな笑顔ではなく、冷たく不気味な笑みを浮かべて。
「誘導、ご苦労」
抑揚のない声で、ヘクターはキャロラインに向かってそう言った。
「もう、消えていいよ」
「・・・え?」
キャロラインは、その言葉の意味が分からず、その場に立ち尽くした。
「な・・・何を、言って・・・」
戸惑いの声は、しかし誰の耳にも届くことなく、静かな部屋の中に虚しく消えていった。リリィは冷たい視線を送るヘクターに戸惑いながらも問いかける。
「えっと・・・ヘクター先生?何か用ですか?」
探るようなその問いにヘクターは「用?用か・・・」とため息にも似た声で口を開く
「そうだな・・・お前を殺す用がある、と言った所か」
冷たく、しかし内に眠る激情を孕んだ声でヘクターは言い放ち、リリィの頭は混乱する。
(殺す・・・?ヘクター先生が・・・?私を・・・?)
意味を理解しかねるリリィはキャロラインを見る。彼女もヘクターが何を言っているのか理解出来ない表情だった。
「ヘ・・・ヘクター先生・・・?」
口を開いたのはキャロラインだった。
「リリィを炎の幻影魔法で脅かして部屋に閉じ込めるんじゃ・・・?」
そんな嫌がらせを考えていた様だ。しかし、ヘクターは確実にリリィを殺すと言った、キャロラインはまさかヘクターがそんな事を考えていたなんて思ってもみなかったのだ。
「私・・・先生に何かしましたか・・・?」
「お前は俺達の師匠を殺した、予言の魔女ベアトリクス・アルジェントをな」
静かに、しかし冷たく言い放った。リリィの思考が、一瞬止まった。殺した? 自分が? そんな覚えは、どこにもない。何を言われているのか、まるで理解が追いつかない。
「10年前のあの日、お前は俺達の師匠を殺した、それは紛れもない事実だ」
あの日、ヘクターの言っているのは反逆の魔女事件の出来事だろう。しかし、ベアトリクスを倒したのはマリアンヌではないのか?あの日、本当は何が起きたのか?リリィは思い出そうとするも、炎で燃え盛る街、人々の悲鳴、亡くなった両親、それ以外の事が思い出せない。
「覚えていないかもしれんが、お前が殺した師匠の仇を討たせてもらう」
そう言いヘクターは懐から一本のナイフを取り出す、柄は黄金に輝き刃は不気味に輝いている。ナイフを振りかざすとヘクターの周囲に雷の矢が複数現れ、リリィはナイフが魔導具だと悟る。
魔導具は物体に魔法術式を刻み込む事で魔力が低い者でも手軽に扱える物だ、それ故に生活を豊かにする為の魔導具から戦闘用の魔導具まで幅広く存在する。
ヘクターが言った事が事実ならキャロラインは利用されただけかもしれない。そう考えたリリィは咄嗟に自分とキャロラインに防御魔法を展開しようとするのだが。
「え・・・? な、に・・・これ・・・?」
展開されたはずの防御魔法が、まるで霧のように、跡形もなく霧散していく。今まで一度たりとも、崩れたことなどなかった魔法が。
「こいつは魔法を阻害の魔導具だ」
啞然とするリリィに、袖を捲り上げ腕に嵌められたブレスレットを見せ、まるで勝ち誇った様に口角を上げてヘクターは言う。
「どんなに強くても・・・魔法を使えないお前なんて、ただのガキだ」
そう言いヘクターは雷の矢を放つ。
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