【第2章-2】名探偵ロナ?
翌日、リリィはロナ、ミリアム、ティオと共に、花瓶が落下した現場に集まっていた。
「相変わらず、とんでもない威力よね・・・」
粉々に砕けたテラスの残骸を見上げながら、ロナが呆れたように呟く。
「でも、王子様が身を挺して助けるなんて、ロマンティックね」
ミリアムが頬に手を当てながら言う――が、その視線はすぐにジトっとした半目に変わった。
「結果は暴風で、花瓶どころかテラスも吹き飛ばしましたけど」
「ほよ、急にオリビエが私を抱きしめて押し倒したからビックリしたよ」
へらっと笑いながら言うリリィに、ロナとミリアムの顔が同時に固まった。
「・・・その字面だけ聞くと、オリビエ様が破廉恥な方になってしまうわ・・・」
「同感だわ・・・」
2人が同時にため息をつく横で、当のリリィは何が問題なのか分かっていない様子できょとんとしていた。
「あ、あの・・・」
おずおずと、ティオが手にした魔導具を見つめながら口を開く。
「魔力の波長は・・・検出されませんでした。なので、魔法ではなく、人力で花瓶を落としたという線が濃厚、です」
「なるほど、人力ね」
ロナが顎に手を当てて考え込む。
「じゃあ、テラスのあった部屋に行ってみる? そこなら、何か手掛かりがあるかもしれないわ」
ロナの提案で、4人はリリィが吹き飛ばしたテラスがあった部屋へと向かった。
部屋の中は、寮の備品類を保管する物置になっているようだった。寮母のゼシカによれば、古い家具や季節ごとの道具などをしまっている場所らしい。
「特に、怪しい物は無いわね・・・」
積み上げられた木箱の間を覗き込みながら、ロナはまるで探偵のような真剣な顔で呟く。
「ロナ?楽しんでます?」
ミリアムがジト目で突っ込むが、ロナは意に介さず続けた。
「そんな事ないわ。それより――今回の件、リリィを狙ったというより、オリビエ様を狙ったものなんじゃないかしら」
「え、オリビエを?」
驚くリリィに、ロナは説明を始める。
「オリビエ様は、アークレイン公爵家のご子息。王国の革新派の筆頭で、国王陛下からの信頼も厚いお方よ」
だからこそ、政敵である保守派とは水面下で対立しており、幾度となく小競り合いが起きているのだという。
「オリビエ様がこの学院に身を寄せていらっしゃるのも、保守派の刺客から距離を置く為だと言われているわ」
「ほよ・・・オリビエの家って、そんなに凄いんだね」
あっけらかんとした反応に、ロナ、ミリアム、ティオは思わず顔を見合わせ、揃って小さく笑った。
「うん、いつものリリィって感じ」
炎魔法の特訓で少し塞ぎ込みがちだったリリィの様子を、3人は気にかけていた。だからこそ、こうしていつも通りの調子を取り戻している姿に、内心でほっと胸を撫で下ろす。
そんな中、リリィはふと、物置の片隅に落ちている白い布に目を留めた。
「あれ・・・何かあるよ」
拾い上げてみると、それは1枚の手袋だった。貴族女性が身につけるような上質な布地に、丁寧な刺繍が施されている。
「これ・・・」
ミリアムが手袋を受け取ると土に触ったのだろうか、その手袋は汚れていた、そして刺繍の柄をじっとっ見つめる。紋章だった。見覚えのある、その意匠――
「これは・・・ネヴラスト伯爵家の家紋だわ」
ロナが息を呑む。
キャロラインの家――ネヴラスト伯爵家の紋章だった。
「あの女、性懲りもなく――!」
拳を握りしめ憤るロナを、リリィが「まあまあ」と宥める。
「ロナ、落ち着いて」
「これで落ち着いていられるわけないでしょう!」
そんな2人をよそに、ミリアムは手袋を見つめたまま考え込んでいた。
「・・・でも、おかしいわね。これはリリィを狙ったという事じゃないかしら?あの女がオリビエ様を狙うとは、正直思えないのだけれど」
「た、確かに、そうだね・・・」
ティオも同意するように頷く。高慢な令嬢が、四大公爵家の子息を害するとは考えにくい――むしろ、彼女の態度からすれば、その逆であるはずだ。
「私の推理が壮大に外れたわけね・・・」
がっくりと肩を落とすロナに、リリィはつま先立ちになりながら、よしよしとその頭を撫でる。
「よしよし」
「よしよしじゃなくて! リリィ、貴女またあの性悪女に危害加えられたのよ?怒らないの?」
じとっとした目で問いかけるロナに、リリィはきょとんと首を傾げた。
「ほよ?でも、私もオリビエも怪我とかなかったし・・・大丈夫だよ?」
あっけらかんとしたその返答に、ロナとミリアムは毒気を抜かれたように、同時にため息をついた。どうしてリリィはこんなにもお人好しなんだろう、と思いながら。
「だからロナも落ち着いて?ね?」
「えぇ、貴女のお人好しさで落ち着いたわ、それよりキャロラインを問い詰める?」
「ほよ、それは良いよ。きっとオリビエも大事にしたくないと思うし」
リリィの意向もあり、キャロラインを問い詰めない事になった。そして、その日の昼食でオリビエに伝える。キャロラインの手袋が落ちていた事実だけを伏せて。
「そうか、リリィの才能に嫉妬しての犯行だろうか」
オリビエは考え込むように呟いた。
「とにかく、リリィに何事もなくて良かった」
「だがな、オリビエ」
隣で不機嫌そうに黙っていたエリオットが、ようやく口を開く。
「こいつを庇ってお前が怪我でもしたら、それこそ大事になるって覚えとけよ?」
「ああ、気を付けるよ」
オリビエは微笑みながら答える。その笑顔の裏に、エリオットはどこか拭いきれない不安の色を感じ取っていた。
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