【第2章-1】そして花瓶は振り下ろされた
授業を終えたリリィ達は寮へ帰ろうとするが、リリィは何か思い悩んだ様子で帰ろうとする足を止めた。
「どうしたの?リリィ?」
ロナがリリィを呼び一緒に寮へ帰ろうと誘うが、リリィは決心したように自分の頬をペチンと叩き「私、炎魔法が発動出来るように特訓してから寮に戻るね」と言いリーシャに演習場の使用許可を得る為に駆け足で職員室へ向かう。
あっけに取られたロナ達は心配して演習場へ行こうと足を運ぶ。しかし、リリィは1人で出来る所までやってみたいと言う意思を尊重してロナ達は一足先に寮へ戻る事になった。本当は一緒にいて欲しいと思うリリィだが、首席なのに炎魔法で震えてしまう姿を友達に見せたくないと言う想いもあった。
「深呼吸して・・・」
リリィ以外誰も居ない演習場でポツリと呟き深呼吸をし集中する。目を閉じ両手を前に掲げ術式を構築する。しかし、脳裏にはあの日の恐怖。
必至に振り払おうとするも、逃げまどう人達の悲鳴が徐々に大きくなる。そして
『リリィ・・・無事だったか・・・』
『逃げて・・・リリィ・・・』
両親の死に際の一言がひときわ大きく聞こえ、リリィは目を開ける。息が荒くなって手足は震えていた。
(お父さん・・・お母さん・・・)
涙を堪えようとするが、震えていた足が力なく抜けリリィは地面にへたり込む。途端に涙が溢れ地面がリリィの涙を吸い取って行く。
「・・・ひっく・・・ぐすっ・・・」
どうしても術式を組む事が出来ない、そんな自分の不甲斐なさとあの日の惨劇を思い出してしまう。
「クローデル嬢、大丈夫?」
オリビエがリリィに優しく話しかける。どうやら特訓をしているのを見られていたらしい。リリィは恥ずかしくなり流れる涙を止められず両手で顔を覆う。
「オ、オリビエ・・・えっと・・・今、私・・・とても人前に見せる顔してない・・・」
「そうか・・・」
オリビエは落ち着いた声で言い懐からハンカチを取り出しリリィに渡す。そしてリリィが泣き止むまで何も聞かず、語らず、ただ隣に居た。こんな小柄な少女が規格外の強さを持っていて、しかし過去の出来事で悩み、乗り越えようとする姿をオリビエは見入ってしまった。
「えっと、オリビエ・・・もう大丈夫・・・」
「あぁ、良かった。君が演習場で特訓しているっぽかったから、つい見てしまった」
「ほよ・・・やっぱ見られてた・・・」
やはり恥ずかしいらしくリリィは顔を赤らめ再び両手で顔を覆う。そんな仕草を見たオリビエはクスりと笑い「恥ずかしくないさ」と言う。
「君が炎魔法が発動出来る様に努力する姿は、恥ずかしくも無いよ」
夕日に当てられ爽やかな笑顔で言うオリビエをリリィは何て絵になるんだろうと思っていた。
「そろそろ寮へ戻らないと暗くなってしまうね。クローデル嬢、寮まで送るよ」
「ほよ、ありがとうオリビエ」
思いがけない申し出にリリィは驚くも、すぐに笑顔になる。
「やっぱり、君は笑顔が一番似合うよ」
「ほよ・・・そ、そうかな?」
今まで言われた事無かったが、貴族と言う者はこう言う事を恥ずかしげもなく言うのだろうかとリリィは思う。
「あぁ、暗い顔をしているよりも笑っている方が可愛いからね」
爽やかな笑顔で言うオリビエをリリィは目を丸くして見つめる。可愛いと言われた?確かにマリアンヌには良く『私の可愛い弟子』なんて言われたりしたが、マリアンヌの言うそれとオリビエの一言は何だか違う意味に感じた。しかし、その違いが何なのかリリィには分からなかった。
「そうだ、私もリリィと呼んで良いかな?」
確かにオリビエはリリィを『クローデル嬢』と呼んでいたなと思い他人行儀な感じがしていた。
「うん、良いよ。私たち友達だもん」
「そうか、良かった」
折角だからエリオットもリリィって呼んで欲しいなとリリィは言い、オリビエはじゃあエリオットに伝えておくよと言い寮へ向かう。
(何であの女がオリビエ様と楽しそうに歩いてる訳?)
自室の窓から景色を見ていたキャロラインは偶然、リリィとオリビエが2人きりで歩いているのを目撃してしまう。その瞬間、衝動的に自室を飛び出し備品置き場の部屋のテラスへ飛び出す。すぐ下にはリリィとオリビエが歩いている。キャロラインは足元にあった花瓶を持ち上げ、手を離す。
2人は雑談をしながら歩いていた。その時、ひゅうっと何かが風を切る音が聞こえオリビエは上を見上げる。上空から花瓶が迫ってきており、このままでは当たってしまう。
「リリィ!危ない!」
オリビエは叫びリリィを押し倒し覆い被さる様に守る。リリィは一瞬、驚いたが上空から降って来る花瓶を目にし咄嗟に腕を伸ばし風魔法を放つ。暴風とも呼べる一撃は花瓶だけでなくテラスごと破壊し吹き飛ばす。
(何よ!?あんなバカ魔法!?)
花瓶を落とした瞬間、キャロラインは部屋にすぐ戻ったが、テラスが風魔法で吹き飛ばされた事に驚き震えていた。
「大丈夫かい?リリィ」
リリィの目の前にはオリビエの顔があった、覆い被さって守っていたのでオリビエの顔が非常に近かった。オリビエの息が聞こえるくらいに。
「ほよ・・・大丈夫だよ・・・」
夕暮れの空の下、二人は気まずさと、そして言葉にならない何かを抱えたまま、しばし見つめ合っていた。
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