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【第1章-10】彼女の口から語られるあの日の事

午後、校舎の食堂は賑わっていた。寮の食堂とは違い、男子生徒も食べるのでスタミナのあるメニューも多数ある。しかしリリィはパンとコーンスープ、サラダとローストチキンと言う割とカロリー控えめな食事を取る。マリアンヌと過ごしていた時もそこまで豪華な食事を取って来なかったリリィには、それくらいが丁度いいと思っている。


「でも、本当にキャロラインの事を先生に言わなくても良かったの?」


開口一番でロナが聞く。朝のあの騒動をリリィは大事にしたくないと言ったは良いが、またキャロラインがリリィに嫌がらせをするかも知れない。そう考えると先生に言って釘を刺して貰うのが一番だと思うのだが。


「うん、私だけが幻影を見せられてただけだから。大丈夫だよ」


少し申し訳なさそうにリリィが微笑みながら言う。大した事ないと言い張るリリィにロナもミリアムもそれ以上は言っても意見を買えないだろうと諦めていた。


「えっと、私も一緒でも・・・良いの・・・?」


ティオが遠慮しがちに言う。キャロラインの幻影魔法を看破した事でリリィはティオと仲良くなりたいと言い出し昼食に誘ったのだ。


「うん。私、ティオと一緒にお昼ご飯食べたい!」


満面の笑みで言うリリィにティオは安堵し昼食を食べようとする。するのだが「やぁ、クローデル嬢、ご一緒しても良いかな?」と言う声の主に反応してティオは固まってしまう。まさかオリビエとエリオットが来るなんて思わなかったのだ。


「あ、オリビエとエリオット。良いよ~」


なんて気さくに言うんだろう、あっけに取られるティオにロナとミリアムは「まぁ、言いたい事は分かるわ」とティオに同情する。しかし、ロナはオロフェア子爵嬢、ミリアムに至ってはエゼルロンド侯爵嬢なのだ。平民であるティオには雲の上の存在。そしてアークレイン公爵子息とアルセダイン侯爵子息までやって来るとは、場違いじゃないだろうか?と思いティオのフォークの手が止まる。


「ティオ、私は貴族の肩書き関係なく貴女と友達になりたいわ」


ティオの様子を察したのかミリアムが優しく言う。ミリアムは美しい容姿から異性には言い寄られ、同性には疎まれる事が多く親しい人など居なかった。だからこの学院では普通の友達が欲しい、そう思っていたのだ。そこへリリィやティオと関係を持てたのはミリアムにとって幸せだった。2人が困った時は手を差し伸べよう、そう思えるくらいに。


「え、あ、ありがとう、ございます」

「敬語でなくて良いわよ。それと、私の事はミリアムと呼んで」

「そうよ、私もロナと呼んでちょうだい」

「じゃあ、私の事もオリビエと呼んで欲しいな」

「流石に無理です」

「はは、サゴット嬢は手厳しいね」


まさかオリビエも乗って来るとは思わなかったが、ティオは内気な性格故に友達と呼べる人がいなかった。だからリリィの昼食の誘いは嬉しかったしミリアムの言葉も嬉しかったのだ。


「そう言えば、クローデル。お前、炎魔法の授業で炎魔法発動出来なかったんだって?」


そんな空気をブチ壊したのはエリオットだ。その一言でリリィの顔は曇り、ロナ達はどう反応して言い分からなかった。あの授業の騒動はリーシャがキャロラインが最初にリリィを侮辱する発言をしたと判断してキャロラインに演習場の掃除を言い渡して収束した。もし、公爵子息であるオリビエが甘い罰と学院長に進言してしまえばキャロラインだけでなくリーシャまでも監督不行き届きでお咎めがある可能性がある。


「エリオット、レディに聞いて良い事じゃないと思うよ。クローデル嬢にだって何か事情があるのかもしれないし」


オリビエだ。爽やかな顔が珍しく怪訝そうな顔をし、エリオットと咎める。まるで紳士的な発言ではないと言いたげだった。


「いや、俺はだな・・・」


エリオットはまだリリィがオリビエを狙った刺客なのではないかと疑っていた。だから炎魔法が発動出来ない事の理由を聞き出し、刺客かどうか判断しようとしていたのだが、リリィに対し礼を欠いた発言だと自覚はあるようで、謝ろうと口を開こうとした時、先にリリィが小さな声で話す。


「ほよ・・・私、炎魔法を発動しようとすると昔の事を思い出しちゃうの・・・」


友達にはこの話をしても良いだろう、リリィは口を開く。ロナとミリアムが心配そうにするが、リリィは大丈夫だよと微笑みゆっくりと話始める。


「えっとね、10年くらい前に私はファラスって街に住んでたんだ」

「ファラスって、もしかして・・・」


ロナが驚きの声を上げミリアムは「反逆の魔女事件ね」ポツリと呟きティオ、オリビエとエリオットは真剣な表情でリリィの話しに耳を傾ける。


「うん、私も良く覚えていないんだけど、覚えてるのはあの日、私が1人でお買い物するって言ってお使いに行ってたの、だけど・・・急に建物が魔法で燃やされて、皆は悲鳴を上げて逃げてた・・・怖くなって私はお父さんとお母さんを探してたの・・・それで・・・見つかったけど・・・瓦礫の下敷きになって・・・」


震える声で話していたリリィが徐々に涙を流す。


「お父さんとお母さん・・・そこで死んじゃって・・・私、頭が真っ白になって・・・」


それ以上の事は覚えていないんだ。そう言い終わったリリィにロナが優しく頭を撫でる。


「辛いのに、話してくれてありがとう・・・」

「ううん、皆には話しておきたかったの。だって、友達だから・・・」


リリィは涙を拭いながら「気付いたら、師匠の家にいたの」と微笑む。まだその眼には涙が溢れそうになっている。


「そう、あの事件はマリアンヌ様が予言の魔女を止めたと言われているわ。きっと貴女はマリアンヌ様に保護されたのね」


ミリアムが何処か納得したように言い、オリビエは難しい顔をして腕を組み考え事をしていた。


「あら、オリビエ様。どうかなさいました?」


気付いたミリアムがオリビエに問うが、オリビエは「いや」と短く答えいつもの爽やかな笑顔にも戻る。


「そうか、クローデル嬢はそのトラウマから炎魔法が発動出来ないのか」

「うん、発動したり近くで炎魔法を見るとあの日の事を思い出しちゃうの・・・」


リリィは俯き言う。首席で入学した自分が何て情けない。そう自分を責めそうになる。


「でも、ちゃんと炎魔法を使えるようになりたいの。でも、怖くって・・・震えちゃって」


涙目になりながら俯くリリィに、ロナは優しく微笑みかけた。


「貴女ならきっと出来るわ。私たちも協力するから」

「そうよ、私たちが付いているんだから。胸を張りなさい」


ミリアムが力強く言い切る。だが、その一言に、リリィはきょとんとした顔で自分の胸元を見下ろした。


「ほよ・・・張るほどの胸・・・ない・・・」

「「「――っ!!」」」


しんみりとした空気が、一瞬で吹き飛んだ。ロナ達だけでなくオリビエも堪えきれず、同時に噴き出す。


「もう、リリィったら!」

「そこは今、関係ないでしょう!」

「ふ、ふふっ・・・」

「やっぱクローデル嬢は面白いね」


つられて笑うリリィの目からも、悲しみとは違う涙が滲んでいた。


「そう言う事だからエリオット・・・」

「悪かった、嫌な事話させて・・・」


エリオットがバツの悪そうに言う。オリビエの無言の圧に負けてエリオットがリリィに頭を下げる。しかしリリィはそんな事を気にしていなかった。ただ、友達にこの話を聞いてほしかった。


「気にしないで、私も話しておきたかったから」


リリィが微笑みながらエリオットに言う。文句を言われるのを覚悟していたエリオットには拍子抜けだった。


そんな様子を影からキャロラインが疎ましそうに覗いていた。


(何よあの女、オリビエ様と楽しそうに話して・・・)


平民であるリリィが公爵子息であるオリビエと楽しそうに話している事が気に入らなかった。


(平民のくせに・・・)


扇子を握る手に力が籠りミシミシと扇子が音を立てる。


「君も、リリィ・クローデルが憎いのかい?」


後ろから声が聞こえた。リリィを睨んでいたあまり気づかなかった。


「彼女が憎いなら、ちょっと協力してくれないかな?」


ヘクターがそこに居た。普段の穏やかな笑顔ではなく、冷たく鋭い目をしていた。


「えっと、ヘクター先生?”君も”という事はヘクター先生も・・・?」

「あぁ、僕もちょっと彼女が憎くてね・・・どうかな?・・・」


キャロラインは一瞬、本当にヘクター先生なのだろうかと疑問に思ったが、リリィに嫌がらせが出来るのならと思い、ヘクターの差し伸べられた言葉にキャロラインはついて行く事にした。

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