始まりはいつもエプロン
「調理器具だよ、調理器具。ここに来る前に言ったろ鳥頭メイド。お前さんの仕事に必要な調理器具を作ってやるって約束だったろ鳥頭メイド」
「ああ、オーダーメイドの見返りに製品化して独占的に売り出したいって件ですか。構いませんけど、どこの家も壊れるまで修理しながら使うようなのに、新製品が売れるんですか?余計なお世話かもしれませんけど」
わたしが借りているブラウンさんちのキッチンでも、鍋やフライパンはどれも年季が入ってました。色はくすんでいるし、金槌で叩かれたらしい修理の跡がありました。飲食店でもなければ、修理できないほど摩耗しません。
「正直言ってわからん。何でもいいから他の店にない特徴が欲しいんだ。ギルド初の食事専門の職種第1号のお前さんなら面白そうな調理器具を知ってるんじゃねえかと思ってな。器具じゃなくてもいい、まず必要なものは何だい?」
「ん〜、そうですねえ…。衛生面に関する道具からかな。手始めはエプロンですね」
ここでの調理は、何よりも先に衛生面に特に気を使う必要があります(もちらん現代でもそれは同じですが)。ブルーベル荘の部屋(管理人室含む)はすべて仕切りのない一つの空間で、唯一調理場のある管理人室はいわゆるダイニングキッチンです。調理場と食事場が同じ空間にあるので、料理をしながら家族と会話ができます。でもその分調理場の周りを人が通るので、衛生面では不利です。
「そのメイド服の腰に巻いてあるエプロンじゃダメなのか?汚れても平気な仕事着だろ?」
ちっちっ、と指を振って偉そうにするわたし。
「調理用のエプロンの目的は逆です。調理時の汚れが服(この場合はロングスカートです)につくのを防ぐのが第一じゃなくて、服の汚れが食材につくのを防ぐのが第一なんです。このエプロンは一日中つけてて汚れてますからね」
「ほーう。さっそく面白いことを聞いた。素材は革でいいか?」
「今、汚れを食材につけないためと言ったばかりでしょ。革製じゃ気軽に洗えないじゃないですか。物忘れがひどいボケ中年はこれだから」
「年上を敬えない女は年下の女に泣くんだ。影でババア扱いされっぞ」
「うるせぇ顔面にカタツムリぶつけんぞ」
「いいから先に進めるぞバカメイド。エプロンは綿でいいな?」
「はい。何着かあると助かります」
「わかった。他には?」
「そうですねえ…」
指を唇に当てて目を上に向けながら、思いつくままにリストアップしました。
作業別に挙げますと、下ごしらえでは『測る、切る、混ぜる、する・おろす、漉す』、調理では『焼く、煮る、蒸す、揚げる』、それから食材を入れる各種容器です。具体的な器具を挙げるときりがないのでやめておきますが、あまり料理の経験がない方でも思いつくと思います。
「ふむ…。まず用意すべきはフライパンと鍋か?」
「それより、計量器具と包丁と菜箸をお願いしたいです。料理は下ごしらえが9割ですから」
料理の先生の受け売りだけど。
「そうなのか。俺はてんで料理ができねえから今後の参考になるわ。サイバシってのは何だい?」




