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栄護士りぼん 異世界大豆生活  作者: 多胡真白
第13話 滋味深き街の食卓
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不味い不味いも好きのうち

お昼にはちと早いので、ぶらぶらしながら市場を見回りました。少しずつですが、毎日アンジュルムに価格を記録するうちに相場の見当もついてきて(なんといろんな記録表も含まれているんです。もはや食品成分表の範疇にないです)、冷やかしが楽しくなってきています。

ここで売られている野菜は、当然農薬や化学肥料は使われてませんし、見た目で選別もされてません。同じ種類でも一つ一つのサイズが違い、より一層の目利き力が試されます。

目利き力を鍛えるには、日々の観察を積み重ねることです。スーパーに通って、食事を作って、体調に気をかけて、そういった細々とした変化を意識することです。もちろんわたしは出来の悪い生徒なので…しかも見知った土地じゃないので、これから苦労しそうです。


ここらの八百屋さんの野菜は、土がついたままの状態で売られていたりします。野菜を買うと、お店のおじさんまたはおばさんが土を手で払ってから渡してくれます。手で払うくらいならどうして土つきなんですか、地面に土がぼろぼろ落ちて汚れませんかと聞いてみたら、こう教えてくれました。土がついていると採りたてに見える、地面に土が散らばっているほどいい八百屋なんだ、だそうです。なるほど、一理あるなとその場は感心しましたが、やっぱり汚らしくて共感しにくいです。中にはわたしと同じ感想の八百屋さんもいるもので、強風の日はたびたび地面の土をめぐっていさかいが起こるそうな。ですよね。


太陽が高く昇り、地面が暖かくなり始める頃、屋台のみなさんがランチタイムに向けてぼちぼちと準備を始めます。冷蔵庫がないからか、営業直前に仕込みを始める人が多いようで、食材を切り、鍋やコンロを並べる様子を見て、音を聞くだけでわくわくしてきます。

ついでなので、いくつか人気のメニューをご紹介しましょう。今市場で一番の賑わいを見せる屋台の名物が『ウォーカー』です。このサンドイッチは、薄くスライスしたコンビーフを何枚も山盛りに重ね、固めに焼いたライ麦の食パンをこれまた薄くスライスして(並みの薄さではありません。牛すき焼きの肉並みの薄さです)肉を挟みます。そしてミルフィーユ状に厚く重なったコンビーフの上に汁気を切ったザワークラウトをちらし、地元産のりんご酢のドレッシングをかけて完成です。コンビーフと言うとアメリカ産の台形の缶詰、ミンチなり糸状なりの肉を想像しますが、このコンビーフは昔ながらの製法で作られた塩辛いブロック肉です。ライ麦、ザワークラウト、りんご酢の酸味がコンビーフの塩辛さと調和し、独特のうまみを作り出します。

パンが薄いんじゃドレッシングがぼたぼたこぼれそうと思われた方、おっしゃる通りです。とろとろしてると手も服もべとべとになります。忙しい職人さんは歩きながらこれを食べます。仕事場に戻るまでに、手が汚れる前に早く食べきるのが粋なスタイルだそうです(ルカさん談)。ゆっくり食べたい人でも、厚めのパンに具を乗せるメニューがあるのでご安心を。

次点は、不動の人気を誇る『キッパー&ケッパー』。キッパーとは伝統的なにしんの燻製で、オレンジ色の身が特徴です。ウォーカーと同じくこちらもサンドイッチで、一口大に切ったキッパーを薄いピタパンで挟み、ケッパーとブラックオリーブの輪切りを散らし、ギー(バターを溶かしてから不純物を除いたもの)をかけて食べます。昔から愛されている定番の料理らしく、フロレンスのソウルフードと言っても過言ではない、らしいです(ルカさん談)。わたしは苦手です…。

ところで、ウォーカーやキッパー&ケッパーに限らず、ここいらではサンドイッチに使うパンは極めて薄いのが普通です。どうやらパンはお皿の代わりくらいに考えられているようで、食糧事情が改善されるに従って、サンドイッチに使われるパンの厚みが減ったそうです。パンよりたっぷりの具を味わいたいのでしょう。

第3位は『貧乏人のソーセージ』。略して『貧ソー』と呼ばれています。茹でたソーセージをすこぶる厚めのピタパンで挟み、きゅうりやセロリのピクルスのみじん切りを乗せたシンプルなホットドッグです。なんとも食べごたえがありそうですが、なんとこのソーセージはパン粉が混ぜてあります。一応塩漬けの肉が使われているので、そこそこ塩味がついてます。

この料理は昔からあるらしく、パン粉を混ぜる理由は、供給量の少ない貴重な肉を、なるたけ嵩を増して食べるためだったそうです。どう考えても美味しくなさそうです。でも実は美味しいんでしょ?と思って食べてみましたが、茹でてぐちょぐちょになったパン粉の塊なんか美味しいはずがありません。それでもまだ食べられているのは、これが土地の味ってやつだからなのかもしれません。だって、誰に聞いても笑顔で『不味い』と言うのですから(ルカさん含む)。


ところで、以上のメニューに共通点があることにお気づきでしょうか?実は、屋台のメニューの多くは保存食が使われているのです。

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