バカと紅茶とオーツ麦
「ん…すぅ〜」
いい香りで鼻腔がいい具合に刺激され、眠りから半分覚めました。深呼吸して吸い込んだほどよく香ばしくそこそこ重たい香りは…あれです、ブラック…ブレックファストです。あ、そうだ、ティーセットを用意しに管理室に行かなきゃ…。
体をベッドから引き剥がして欠伸をしました。紅茶の香りの元に目をやると、すでにアンジェリカが紅茶を一杯ひっかけてました。テーブルには白い皮のチーズと半分くらい牛乳が注がれたボウルが二つ置いてあり、アンジェリカはスプーンでボウルから細かなフレーク状の何かをすくってちまちま食べています。
「やっと起きた。いつまでも起きないから朝食を用意しておいたわ」
「ごめん、ありがと…。何を食べてるの?」
「オートミール…オーツ麦のシリアルよ。りぼんの分も用意してあるわ」
見るとわたしのボウルは牛乳で満たされており、牛乳を吸ってでろでろになったフレークが顔を覗かせていました。嫌な予感がして一口食べてみると…。
「味がしない…。食感はぐちゃぐちゃ…」
シリアルはカリカリのフレークに牛乳をかけて楽しくいただくものと思っていたわたしには嫌がらせとしか思えない仕打ちでしたが、こちらではこれが普通の食べ方だそうです。大抵は軽く煮込んでお粥っぽくし、火が使えないときは牛乳に浸けて柔らかくして食べるらしいです。
「慣れれば十分美味しく感じるようになるわ。朝食や病気のときはこれくらいの薄味でちょうどいいのよ。そう言えばアオイが作ってくれた料理の中には、甘く煮つけた豆もあったし、干し鱈も中途半端な塩抜きで済ませたり、わたしは食べなかったけど、薄味の繊細な料理があったかと思えば極端に味が濃い料理もあったわ。きっと濃い味つけに慣れたあなたのバカ舌ではオーツ麦の素朴な味わいがわからないんじゃないかしら?ふ」
「くっ…。いいですか、日本料理は素材の味を引き出す味つけをするんです。最小限の塩気でいい料理もあれば、味つけを濃くすることで引き出される素材もあるんです。豆とか、漬物とか、干物とか、塩鮭とか、ソースたっぷりの豚カツとか、しょうゆラーメンとか、さらには豊富なスパイスを組み合わせたカレーとか…あれ?」
ジャパニーズキュイジーヌ、味濃くね?
…古今東西、時代が下るにつれて料理は軽くなり、薄味になるのが世の常です。今でこそ魚介の繊細な味を楽しめるお寿司も、江戸時代に遡れば激塩のおにぎりみたいな庶民の食べ物でした。あらかじめネタにしょうゆなどで味をつけており、シャリも赤酢と塩で味をつけており、しかも味つけが濃いので現代人はとても食べられないとか。それだけ肉体労働がきつかったのでしょうが、お腹が減ったと子供がぐずると「寿司でも食ってろ」と親が言ったとか言わなかったとか。子供は肉体労働がなくても親の味覚を継ぐものなのかもしれません。
一方で江戸時代は白米や豆腐がもてはやされており、味の好みが両極端でよくわからない時代です。
でも、現代も似ているのかもしれません。なにせ素材の味を楽しむ繊細な料理文化の国民食がカレーとラーメンですし。




