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栄護士りぼん 異世界大豆生活  作者: 多胡真白
第9話 ソイ・ガストロノミー
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甘くない焼き菓子

「おいおい、唐突に言われても作り置きは包丁と鍋くらいのもんだぜ。たった一日じゃ用意できねえって。

ただ、嬢ちゃんには世話になってるからな。俺の仕事道具でよければ安く貸してやるよ。どうだ?」

「どうせ日帰りで済むからそれでいいわ」

「商談成立だな。ちょっと待ってな」

ルカさんが奥に引っ込んでから待つこと数分、細かな傷が無数にある使い込まれた革のエプロンと手袋をそれぞれ2着と、よく手入れされて錆のないスコップとシャベルを運んできてくれました。

「嬢ちゃんの背丈じゃ大きいだろうが、適当に工夫してくれ。スコップとシャベルは使い終えたら水分を拭き取っておいてくれ」

「了解。宿に運んでおいて」

「人使いが荒えなあ。今後ともよろしく頼むぜ」

やれやれ、と言った感じでルカさんは道具の束を紐で縛りました。

それでも断ろうとしないのは、アンジェリカの扱いに慣れているのでしょう。大人の男性が相手でも当然のように自分の要求を押し通すアンジェリカもアンジェリカで、なるほど名家のお嬢様とはこういうものかと感心してしまいます。

用事が済んだアンジェリカがさっさと店を出ようとすると、ルカさんが引き止めました。

「待て待て」

ルカさんは何かが入った小さな袋をアンジェリカに投げ渡しました。

アンジェリカが袋を紐解いて取り出したのは、手のひらサイズの正方形のビスケット?のようです。

「旅商人から料金をまけるかわりにもらった保存食だ。肉も魚も使ってないから、これなら嬢ちゃんでも平気だろ。パンと紅茶で済ませてないで、精力のつくもんを食わないと、とても農作業はできねえぞ」

「ただの焼き菓子じゃない。バカにしてるの?」

「ちょっと見せて?」

お菓子に見える保存食というビスケットが気になって、アンジェリカに借りてまじまじと見てみました。

正方形のビスケットの厚さは2cmほどで、こげ茶色に焼き上げられ、一見して庶民派の素朴な焼き菓子のようです。しかし、ずっしりとした重さがあり、かなりの食べごたえがありそうでした。

指でつまんでひとかけら分を折ろうとしましたが、あまりにも固すぎてダメです。思い切って噛みついてみました。あごの力を総動員してやっとゴリっと砕けました。

本格的なガトーバスクやタルトのような固いお菓子はありますが、このビスケットの固さは頑固なせんべい以上です。普段柔らかいものしか食べていないひ弱なわたしにはなかなかきつい食べ物です。

それでも必死に噛み砕くうちに味がわかってきました。バターの風味とコクがあり、乾燥レーズンやナッツ類の実を砕いたものが入っていて、ほんのりとした甘みがあります。

ただ、予想と違ったのが塩気です。砂糖の甘みのない、想像となんか違うお菓子です。

でも、似たものをどこかで食べた覚えがあるような…。あ、そう言えば、料理好きの友人が花見に持ってきた手作りの料理の中にありました。あれはケーク・サレと言う食事用のしょっぱいパウンドケーキもといカトルカールでした。カトルカールとはフランス語で『1/4が4つ』という意味で、その由来は材料の小麦粉、卵、砂糖、バターがそれぞれ同じ割合で作るからだそうです。フランスかぶれでパティシエ気取りの夏海は元気かしら。

「何よ、お腹空いてたなら言いなさいよ。みっともない」

「ごめん、急用ができたから先に帰る。お昼は適当に食べて…いや、できればたまごサンドとサラダと果物を食べて。お茶を飲むならカフェラテでもミルクティーでもいいから牛乳を入れること。ケーキをお昼代わりにしちゃだめよ」

「え?ちょっとりぼん、待ちなさいよ」

わたしはルカさんにお礼を言って、ビスケットの袋を持ってお店を出ました。いいヒントを得てテンション高く早足で宿に戻りました。


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