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栄護士りぼん 異世界大豆生活  作者: 多胡真白
第9話 ソイ・ガストロノミー
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ハロー、ワーク

「にがりがないから豆腐は無理、青臭いから飲むのも無理…。ていうか毎日は無理。絶対無理」

たかだか数リットルの豆乳を作るだけでへとへとです。この重労働をとても毎日はやってられません。

テーブルの上にある豆乳が入った木桶を前にして頭を空っぽにして休んでいると、玄関からドスドスドスと低音の足音が近づいてきました。足音の主だったアンジェリカが大層ご立腹の様相で部屋に入ってきました。

「何なのよカルミネのやつ!昨日と話が違うじゃない!」

その剣幕たるやわたしでも思わず怯み、オリバーくんに至ってはすっかり怯えてしまいました。

「ど、どうしたの?落ち着いてオリバーくんが怖がってるから」

「どうもこうもないわ。ギルドの連絡掲示板の周りが騒がしいと思ったら、すべてのランクの昇級試験の受験資格に新しい条件が追加されていたのよ。昨日の今日よ?絶対わざとよ!」

「新しい条件?」

「受験するランクより上のランクの冒険者からの推薦状を三つ以上集めること、だそうよ。つまり、FランクのわたしたちがEランクの昇格試験を受けるには、最低でもEランク以上の冒険者三人からの推薦状が必要になるのよ」

ええー…。ここに来たばかりのわたしに冒険者の知り合いなんかいるはずないのに推薦状を書いてもらえと?アンジェリカもあてはないよね、きっと。ぼっちらしいし。

「アオイに文句を言ったら、今度はわたしへのペナルティが追加されてたのよ!一年以内にCランクに昇格できなければ、わたしの冒険者資格を剥奪するって!完全に後出しじゃない!」

「あのー、それって先日独断で例のオオウサギと取っ組み合ったからでは?自業自得じゃん」

「なんですって!あなた一体誰の味方なの!?」

「それはもちろんお嬢様です」

と、クソ真面目な顔して忠誠を誓いながらも内心しめしめと思ったのを告白せねばなりません。なにせ、これでアンジェリカも真剣になってくれるでしょうから。アンジェリカの当事者意識はわたしにとって死活問題です。

「まったく。だいたいあいつは昔から気に食わなかったのよ。うやうやしい態度をとっても腹の底じゃいつもわたしを見下して…。あー思い出したらまた腹立ってきた。この牛乳もらうわよ」

「ちょま…」

オリバーくんがほとんど口をつけなかったコップを一気にあおり…すぐさまブフォっと盛大に吹き出しました。

「きったな!」

「まっず!何よこれは!」

ごほごほ咳き込むアンジェリカの足下の床は豆乳で白く染まってびしょびしょです。地上波ならキラキラモザイク処理待ったなしです。ほんとにいいとこのお嬢様なんでしょうか。首を傾げたくなってきました。

「それは豆乳と言って、大豆のジュースだよ。体にはいいんだけど、いかんせん独特の臭いがあって…」

「ニホン人は半発酵の青臭い緑のお茶を飲むとアオイに聞いたけど、豆の汁まで飲むわけ?他の国の文化をバカにするつもりはないけど、わたしはニホンで暮らせそうにないわ」

「いやいや、日本で豆乳を飲むようになったのはわりと最近だから。普通は固めたり煮たりして加工して食べるんだよ。普段から豆乳を飲む国だと甘くして飲むらしいけど、土地の料理と合う合わないがあるんだろうねえ」

「まあいいわ。それより、今から明日の仕事に必要なものを買いに行くわよ。すぐに支度しなさい」

「はい?仕事?」

「鈍臭いりぼんにもできそうな仕事を受けてきたの。さっそく明日の朝に出発するわよ」

「ええ?わたしも行くの?」

「当たり前よ。まさか、炊事洗濯で勝手にランクが上がると思ってないでしょうね」

うっ、ぐうの音も出ません。アンジェリカが太ればそれでオッケーだと思ってました。

「でもわたし弱いよ?帰宅部歴6年だよ?」

「大丈夫、今回の仕事安全な場所での植物採集だから。それに、何かあってもわたしが戦うから問題ないわ」

「不安しかないんだけど…」

「口ごたえしないでさっさと支度しなさい。外で待ってるわよ」

何を買うのか知らないけど、ろくなものを買いそうにないなあ…と、諦めムードでバッグを取りに部屋に向かいました。


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