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栄護士りぼん 異世界大豆生活  作者: 多胡真白
第9話 ソイ・ガストロノミー
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いつかはきっとトーフサロン

豆乳とは何かーー大雑把に言えば、大豆のジュースです。そのまま飲むこともできますが、豆乳を原材料として加工された食品のほうが一般的でしょう。

豆乳加工品の代表は、なんと言っても豆腐です。豆腐は『にがり』と呼ばれる凝固剤で豆乳を固めた食品で、日本に限らず東アジアで広く古くから食べられています。生でよし、焼いてよし、煮てよし、揚げてよしの八方美人です(いい意味で、ですよ)。

豆腐と言えば、小学生の頃の同級生だった水卜さんを思い出します。水卜さんちは豆腐屋さんで、社会科見学の授業でお邪魔したことがありました。職場に満ちる澄んだ水の香りが強く印象に残っています。無味無臭だなんてとんでもない、綺麗な水は薫るのだとそのとき初めて知りました。

ただ、水は妥協するにしてもにがりは手に入りそうにありません。エースである豆腐先輩が試合に来れないのは残念ですが致し方ありません。いつか豆腐を作れる日が来たら、みんなで湯豆腐をつつきながら人生を語り合う風雅なサロンを開きたいものです。

さしずめわたしはトーフサロンのマダム…あ?せいぜいゴミ捨て担当のバイトだと?お前が注文したから揚げにレモンかけといてやんよ☆


さて、豆乳作りの手順はそう難しくありません。


1. あらかじて水に浸してぶくぶく膨らむまで吸水させ、

2. 粉々になるまで砕き、

3. どろどろになるまで潰し、

4. 煮て(生だとお腹を壊します)、

5. 絞ります。残った絞りかすがおからです。


なーんだ、簡単じゃん。アンジュルムを読んで調子に乗ったわたしは、ブラウンさんに教えていただいた木臼を倉庫から持ち出して戻り、ウキウキと大豆を木臼に投入しました。


30分後。


…すいません、豆乳作り舐めてました。30分が過ぎてもいまだ潰しきれてません。実は昨晩、講習が終わってギルドから戻ったあと、寝る直前までアンジュルムを前にうんうんうなっていて、夕方に大豆を水に浸けておくのをすっかり忘れていました。

アンジェリカのナイトティーをブラウンさんに用意していただいたときにご迷惑ながら大豆の下準備をお願いしましたが、潰すには到底吸水時間が足りなかったようです。固いのなんの、まさに大豆の難点にふさわしい固さです。人生で大豆が恨めしいと思ったのは初めてです。

問題は大豆の固さだけではありません。この木臼が破砕に向いてないのです。いわゆるつき臼と呼ばれる半球分が凹んだ形状で、小さめの餅つき臼って感じです。ごますり鉢のような溝もなくざらつきも少ないので、下に押して砕いた豆が底に引っついたり滑ったりして潰しにくいことこの上ありません。あとでブラウンさんに木臼の用途を聞いてみたら、小麦粉などの粉と水を混ぜ合わせたり、ナッツ類を軽く砕くのに使っていたそうでした。

それでもどうにか潰し、煮て、熱々の豆乳で火傷しそうになって絞り終えたときには、もう二人揃ってくたくたでした。


ですが、ここがスタート地点です。まずは試飲をば、と大きめの木のお玉じゃくしでコップに注ぎます。しかしコップを口に近づけてすぐ、嫌な予感が当たりました。

「やっぱ青臭いわ…」

豆乳の最大の難点、それは大豆独特のにおいです。偏見かもしれませんが、常温の豆乳のにおいが好きな人はあまりいないのではないでしょうか(実際わたしも苦手です)。わたしの知る豆乳ユーザーはどなたも「健康にいいから」という理由で飲んでいます。「好きだから」と答えた人はまだ知りません。

オリバーくんは予想通りの反応をしてくれました。においを嗅いでしかめ面になり、我慢して一口飲んだら苦虫を噛み潰したような顔をしました。ブラウンさんにも飲んでもらいましたが、おおむね似た反応でした。

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