内定したら試用期間でした (3)
カルミネさんの退出を確信すると、わたしはテーブルに突っ伏して、両腕をだらりと投げ出しました。するとわたしの前にわざわざ支部長さんが来て、深々と頭を下げられました。
「りぼん君、不甲斐なくて申し訳ない。安心して働いてもらうはずが、大きなプレッシャーをかけてしまった。すまない」
「いえ、そんな、頭を上げてください。どこぞの馬の骨ともつかない根無し草のわたしに仕事を与えてくれて感謝しているんです。アンジェリカに出会わなければ、支部長さんに出会わなければ、絶対行き倒れてたんですから」
「そう言ってもらえると助かるよ。さ、堅苦しい話はここまでにして、食事にしようじゃないか。フランツ君、用意を頼むよ」
「よしきた!」
そう叫ぶや否や、フランツさんは勢いよく部屋を出ていき、やれやれと言いたげなソフィーさんも続きました。
お二人は10分も経たないうちにたくさんのコーヒーカップとサンドイッチを乗せた大皿を部屋に運び込みました。ソフィーさんがコーヒーカップを一人一人の前に丁寧かつ手早く置き、フランツさんが大きなコーヒーポットを傾けてコーヒーを注ぎます。一滴も跳ねない見事な手際です。
「今夜は場所が場所だけに、アルコールなしですまないな。代わりに、ウエンツの美味いコーヒーとサンドイッチを用意した。りぼん君の歓迎も兼ねて、乾杯!」
乾杯!とたくさんのコーヒーカップが掲げされ、コーヒーの香ばしい香りが部屋を満たします。その光景を見て、ここに飛ばされてから知らず知らず張り詰めていた緊張が一気に解けたのでした。ちょっと目から出てしまった汗を白い袖口でそっと拭くと、アンジェリカが綺麗なハンカチをすっと差し出しました。なんだかんだ言ってもかわいいとこあるじゃない…と感動してハンカチを受け取ると、
「うちの服を汚すんじゃないわよ」
と言い放ちました。
前言撤回。かわいげの欠片もありません。
皆さんが美味しい食事で楽しい時間を過ごされている間、わたしの心の内は食事どころではありませんでした。明日からの生活の心配とプレッシャーに押しつぶされそうで、せっかくのコーヒーの香りもサンドイッチの味もろくに感じません。来てくださった職員さんとのご挨拶も上の空で、誰がどなたか記憶にありません。
ただ、幸いだったのは、みなさんが枝豆を受け入れてくれたことでした。物珍しさもあって、ぜえはあしながら持ってきた重さの分量の枝豆がみるみるうちに大皿から消えていきました。ひっきりなしに葵さんが食べていたような…。
さやから豆を取り出すのが面倒くさいという意見もあれば、それが楽しいという意見もあり、味はいいけど固くて半生の豆を食べているようだとおっしゃる方もいました。お酒のつまみにしたいクリスさんと枝豆をテリーヌにして見たいソフィーさんからリクエストもいただき、大豆クエストの出だしは順調に滑り出した…かのように見えました。




