内定したら試用期間でした (2)
カルミネさんが提示したCランクへの昇格という条件に、職員の皆さんの間にどよめきが湧きました。
支部長さんの渋い顔に少々苛立ちが見て取れました。Cという表現からして大したことなさそうと感じたわたしは、葵さんに小声で尋ねました。
「ああ、りぼんちゃんは来たばかりでわからないでしょう。Cランクは一人前の冒険者とみなされるラインね。
アンジェラの戦闘職だと3つの試験があるの。試験官と試合を行う実技試験、知識と応用力を問う筆記試験、受験者同士でパーティーを組んで実際にクエストに取り組む野外試験。合格率は2割以下よ。
受験のチャンスは半年に一回。受験資格も厳しいから、頑張らないと受験すらできない可能性も高いわよ」
「はあ、大変そうな試験ですね」
「何を呑気に構えてるの。あなたも受けるのよ?言わばあなたたちが二人とも英検準1級に1年で合格しなければ、あなたは誰も知り合いのいないこの土地で路頭に迷うのよ」
「英検準1級!?わたし3級しか持ってないですよ。あの人、無茶振りが過ぎやしません!?」
「そうね。でも、カルミネさんが予算の権限を持っているのは事実なのよ。支部長と言えど、カルミネさんを無視してお金を引き出せないの。二人の仲はいいとは言えないと思っていたけど…」
カルミネさんが続けます。
「ご安心ください。この他には一切の制限を設けません。優秀な人の手を借りるのもよし、あるいは…潤沢な資産を利用して試験官を買収しても構いません。いかがですかな?」
「ううむ…条件が厳し過ぎやしないか」
「お嬢様はいかがなされますか?」
カルミネさんはアンジェリカに水を向けます。
「…わたしの装備や諸経費も予算に含まれるのかしら?」
「ええ、それはもちろん。ただし、条件を満たせなかったときは、予算で購入した装備品は返却して頂きます」
「わかったわ、その条件を飲みましょう。ぶっちゃけりぼんの進退はどうでもいいけど、今の稼ぎじゃろくな装備を整えられないもの」
ええー!?味方じゃなかったの!?
「わ、わた、わたしはその場合どうなりまするでござるか?」
半ばパニックになって謎のサムライ語尾がくっつきました。
「今の仕事を続けて頂いて全然構いません。しかし無給が嫌というのであれば、当ギルドの食堂の仕事をご紹介しますよ。その方がお互いに有益でしょう」
無給…!ブラック!ブラックです!
わたしはアンジェリカに目で助けを求めました。すると、彼女の綺麗な笑顔が眩しく輝きました。
「屋根の下でメイド服を着るのと、ここでメイド服を脱ぐのと、どっちがいい?」
「やらせてくださいお願いします!」
マクミラン家の人は揃いも揃って強引です。どなたかわたしに拒否権を与えてくだされ…。
「では、成立ですな。私はここで失礼させて頂きます。まだ仕事が残っていますので」
「待って」
くるりと背を向けて部屋を出ていこうとするカルミネさんをアンジェリカが呼び止めました。
「エダマメ、美味しいわよ」
険悪な雰囲気を物ともせず、アンジェリカはエダマメを乗せた小さな木皿を差し出しました。カルミネさんは半身だけ振り向いて枝豆を一瞥し、値踏みするような目でアンジェリカをじっと凝視しました。わずか数秒の間でしたが、何十秒もかかったように感じます。
「…ちょうど気分転換をしようと思っていたところです。頂きましょう」
カルミネさんは小皿を受け取って部屋を出ていきました。廊下を歩く足音が遠ざかると、わたしは肺の空気をすべて吐き切りました。




