身に余る賞賛です
男性の挑戦的な目力にビビって涙が引っ込んだのも束の間、破顔一笑して穏やかな目のナイスミドルに変わりました。
突然見知らぬ偉い人から賞賛の拍手をいただいた戸惑いもさることながら、威勢よくおっしゃった「ブラーヴァ」という言葉の意味がわかりません。
「私の故郷では、素晴らしい演劇や音楽を披露した芸術家に対して『ブラーヴォ!』と声を上げて称賛します。しかし、私がなぜ『ブラーヴォ』ではなく『ブラーヴァ』と声を上げたのかと申しますと、私の故郷の言語はフロレンスの言語と異なり名詞に男女の性別があります。賞賛の対象となる相手が男性であれば男性形の『ブラーヴォ』、女性なら女性形の『ブラーヴァ』となるのです」
「な、なるほど。勉強になりました」
「失礼、ご挨拶が遅れました。私は当ギルドの会計を担当するカルミネ・ピアッツァと申します。以後、お見知り置きを」
はるか年上のナイスミドル、しかも偉い人にご丁寧に頭を下げられて再びビビってしまいました。
「ど、どうも、高橋りぼんと申します」
「素晴らしいご講義でした。さすが支部長直々に新職種に任命された方だけあります。まだお若いのに、栄養に関して私どもが到底及ぶべくもない知識をお持ちです。私の愚息にもりぼんさんの爪の垢を煎じて飲ませたいですな」
あまり褒められるとこっぱずかしくなります。そもそもわたしの成果ではないのですから。少し胸が痛みます。
「特に四群点数法には感銘を受けました。私などは食事に関していささか頓着のない性質でして、チーズとコーヒーのみで食事を済ませる日も間々あり、妻からは肉とパンを食べなさいと口を酸っぱくして注意されています。家族のためにも、これからは食事のバランスに気をつけたいものです」
「カルミネ君、何か質問があるのだろう?彼女が困ってしまうよ」
「おっと、申し訳ありません。どうも私は話が回りくどいと妻によく叱られます」
ははは、とカルミネさんは上品に笑いました。
「折角のご講義のあとに下世話な質問で申し訳ないのですが、私は会計という仕事柄、どうしても金銭を中心に置いて物事を考えてしまうんですな。聞けば、りぼんさんの当面のお仕事は、アンジェリカお嬢様がお召し上がりになられるお食事のご用意だそうですね。マクミラン家のただ一人のご息女であらせられるご身分のお嬢様でも、確かに今は当ギルドに所属する冒険者の一人です。ですが、他の冒険者と平等に扱われるべき身とは言え、仕事として給仕に従事するからには安物をお出しするわけには参りません。
しかし、お嬢様は下賎な私利私欲とは無縁のお方です。純粋に旦那様のお力になれる日が来ることを願って、報酬の如何にこだわることなく、日々懸命に仕事に取り組んでおられます。
そのようなお志を掲げるお嬢様が、金に物を言わせた贅沢を好むはずがありますまい。実際に、当ギルド指定のブルーベル荘に一人でお住まいになり、市場やフランツ君のお店に通われるなど、至って庶民的な生活をされていると伺っております」
「カルミネ君、もう少し簡潔に話してもらえないかな?彼女も疲れているのだから」
「これはこれは、たびたび申し訳ありません。私の懸念は、だいたいで構わないのですが、栄養管理にかかる費用がどの程度のものなのか、ということです。失礼ながら、お嬢様とりぼんさんのお二人の食事にかかる費用としてはいささか大きいと思われる金額が予算に計上されているのですよ。さらに、予算にはりぼんさんの滞在費も含まれています。新しい職種に期待を懸ける支部長のお気持ちは重々承知しておりますが、優先して予算を割り当てたい業務はいくつもあります。適切な用途には適切な予算があって然るべきではないでしょうか」




